私の陽だまりくん(前編)【WIND BREAKAR】
第15章 夏休み
お弁当はホットサンドと冷たいコーンスープにした。冷たい麦茶も水筒に入れてバッグに詰める。
"コンコン‥"
お店の扉を叩く音に顔を上げると、扉横の窓からこちらに手を振るはじめの姿が見えて、私は扉に向かった。
「おはよ!悪いな、朝早くに。」
「おはよう!ううん、大丈夫。」
んじゃ、行くか!と、お弁当や荷物が入っている鞄を持ってくれるはじめ。
「今日は何するの?」
歩きながら私が聞くと、笑顔で。
「水やりと、収穫だな!」
思った通りの答え。
「はじめの作った野菜美味しいし、大きいから楽しみだな〜」
「今回、ピーマンとトマトが豊作でさ〜、たくさん収穫出来るぞ!」
そんな会話をしながらふと、違和感に気付く。
「はじめ‥今日髪の毛下ろしてろしてないね?」
休みの日は、大体髪の毛はセットせずに下ろしているはじめだが、何故か今日はいつも通りのオールバックだった。
すると、私の質問に苦笑しながら頭を掻くはじめ。
「いやさ、いつも水やりとか収穫手伝ってくれる1年がいるんだけど‥。」
「あ、もしかして‥」
‥思い当たる人物がいた。
「悪いからいいって言ってんだけど、やりたいからって、休み入ってからも毎日来てくれててさ。」
「‥今日もいるかもしれないからって事?」
頷くはじめに、私の頭に浮かんだ‥とある人物。
「もしかして‥杉下(すぎした)くん?」
「そう!ひまりも、何回か会った事あったよな?」
彼は、私もよく知っている人物。
杉下 京太郎(すぎした きょうたろう)
中学時代から風鈴高校に出入りしていて、その情熱と才能を認められて唯一、高校入学前からボウフウリンを名乗ることを許された実力者。
はじめを崇め奉る狂信者でもある。
お店にも何回か来てくれていたので、私とも顔見知り。
‥出会った頃から変わらない、相変わらずの忠誠心に感心する。
「そうだね、あんまり話した事は無いけど‥」
「杉下は大人しいからな〜」
そんな話をしていたら、いつの間にか風鈴高校の前に着いていた。
私は、目の前の校舎を見上げて‥その光景に固まった。
噂には聞いていたけど‥。
グラウンドを囲む外壁も、校舎も。
一面スプレーで落書きされていて。
何というか‥凄い。
色んな意味で。
呆気に取られ、立ち尽くす私。