第1章 北風
side黄瀬
「実家だっつーから、お前も来い」
「え⁉なんで俺も⁉」
電話を切って居場所が分かったのはいいけどなんで俺が実家に同行するのか意味不明‼
「あんずの親父さんがお前の事すげぇ好きだから、お前を使って俺にいい顔させろ」
「それマジっスか⁉俺のファン層って20代から40代の女性が主なんスけど」
別に行くのはいいとしてもきゅーちゃんのパパさんが俺のファンとか全然信じらんない
「マジだ。あんずは親父さんがうるさく騒ぐってお前と知り合いなことは話してねぇけど、この間二人で飲んだ時ついポロっと俺が言っちまったんだよ。そしたらサインほしいって大興奮しちまって…今までのお前の負けはチャラにしてやるから俺に付き合え」
俺たちは負けた方がご飯おごるとかジュース買うとかガキの時と変わらない賭け事をしてる。
しょっちゅう負けてるけどまだ何もしてないから同行するだけでいいなら全然いい。
それに俺のどこに魅力を感じてくれてるのか聞ければ、ファン層を広げられるヒントになるかもしれない。
マンションを出て30分くらい走ってから、少し奥に入ったところにある和風庭園が印象的で立派な門がある家が見えた。
表札は“九”
読み方は“いちじく”
俺たちはみんなきゅーちゃんって呼んでるけど本名は“いちじく あんず”
到着を見ていたかのようなタイミングでニコニコと笑う小柄なおじちゃんが俺たちを出迎えてくれた。
「大輝君‼この間はたのしかったよー!」
「俺も楽しかった。だから今日は黄瀬連れてきた」
「え⁉ほんと?」
親し気に笑って話す二人を見ながら車から降りて、キャップを外して挨拶をすると、目をらんらんと輝かせて握手を求めてくれた。
めちゃくちゃハイテンションで俺たちを迎えてくれると、広い裏庭があってそこから何かを焼くような匂いと二人の女の人の声
1人はきゅーちゃんだけど、もう一人は知らない。
「藤堂?」
「そうなんだよ。昼頃にあんずから電話来てつばきちゃんと七輪でサンマ焼いて食べるって言って二人できたんだよ」
七輪でサンマって…
思いつきもすごいし、それを即座に実行しちゃう当たりがホント自由
褒められたりしながら奥に案内されると、ウチワでパタパタしながら楽しそうにサンマを食べてる二人がいた