第3章 escada
sideつばき
病院に行こうって意味が最初は理解できなかったけど、涼太の顔は真剣で、話が本題に入ったことを理解するには充分だった。
だからあたしも覚悟を決めて、自分のことをきちんと話そう
隣に座り直してひと呼吸吐き出してから、自分がこうなってしまった原因をひとつづつ話していった。
初めての行為の時からずっと撮影されていたこと
相手のやり方を好きになることができなくて、ずっと演技をしていたこと。
それをグループ内で回して、同じ学年の人数人に見られていたこと。
自分の反応が笑いのネタになっていたこと。
「涼太は…あの人と違うって分かってはいても…ベッドに行くとどうしても落ち着かない。声を聞かれたり、顔を見られて笑われるんじゃないかって思うと……どうしても……体が…」
もう言葉にならなかった
あんな最低な男と涼太を重ねているような自分が情けなくて、申し訳なくて…
それと同時に恥ずかしくて
マイナスな感情が全て涙になってあたしの頬も手もびしょ濡れになる程涙がこぼれた。
「もっと、早く気付いてあげるべきだった…無理させちゃってごめん」
涼太は何も悪くないのに
涼太が謝ることなんて全然ないの
そっと優しく抱きしめて、落ち着かせるように背中を撫でられるとさらに涙が溢れて、もう顔を上げることができなかった。
あたしは涼太に無理強いされたことなんてなかった。
涼太と繋がりたいっていうのは自分の本心だった。
涼太に胸を借りたまま、少しずつ呼吸を落ち着けて、今度は今の病院でしている治療のことをひとつづつ話した。
「PTSDになってることは……自覚がなかったの。もう完全に過去のことで吹っ切れてるって思ってて……」
最初から体が反応しないことやその原因が自分で分かっていたら、きっと自分でも病院で治療をしようってもっと早くに思えていたかもしれない。
あの男と別れて以来行為とは無縁で、それを別に不自由に感じなかったことであたしは自分の問題から目を逸らし続けて、そうするうちに、問題なんてないんだって自分に都合のいい解釈にすり替えた。
最初から自分の問題を直視していたら、こんなことにはならなかった。