第3章 escada
side黄瀬
話すならなるべく早い方がいいと思っていたのに、すっかり寝てて、起きたもうつばきは隣にいなくてリビングから物音が聞こえた。
体内時計が完全に狂ってるせいで怠い体を起き上がらせて寝室を出ると、クイックルワイパー片手に部屋を掃除してくれているつばきがこっちに振り返った。
「ごめん…うるさかった?」
「全然。こっちこそごめん。爆睡しちゃった」
色々と考えていたから寝付いたのは空が白んでからだったけど、撮影中の緊張やら慣れない英語でのやり取りから解放されて、ほっとする我が家にほっとするつばきの体温ですっかり寝てしまった。
「疲れてるんだから、もっと寝ててもいいよ?」
「もう起きるよ。せっかく一緒なんだから、寝てるなんて勿体ない」
普段、ただでさえ我慢させてるんだから、一緒にいて俺だけ寝てるんなんて勿体ない。
一緒にお昼寝とかなら全然いいんスけどね。
「じゃあ、一緒にご飯食べよ?もう朝飯って時間ではないんだけど…」
「そっスね。朝昼ごはん」
世間ではブランチっていうけど、俺とつばきはこの中途半端な時間に食べる食事を“朝昼ごはん”って言ってる。
付き合って、一緒に過ごすようになって、泊まるようになって、二人だけのルールとか言葉とか、目に見えるものだけじゃなくて、見えないものもたくさん増えた。
そしてこれからももっともっとそういうものを増やしていきたい
つばきが用意してくれた朝昼ご飯を一緒に食べて、イギリスでのことをいつものように話した。
「やっぱ、つばきのごはんが一番うまい」
「もー。そんなに褒めても何も出ないよ?イギリスは何がおいしかった?」
「んー……全体的に俺の口には合わなくて、ずっとつばきのご飯が食べたかった。あ、でもマカロンは美味しかったから買ったっスよ。多分今日あたり届くはず」
つばきはマカロンが好きでよく食べてる
だから美味しかったら買おうって思ってたらメイクさんが丁度差し入れてくれて、甘いものが苦手な俺でも美味しいって思ったからきっとつばきも気に入ると思った。
「えー!嬉しい。ありがと!」
笑った時目の下がいつもよりも窪んでるのは寝不足の印
きっとつばきもいろんなこと考えてたんスよね…