第2章 糸口
sideつばき
「命の危険って言われると、肉体的なことだけにフォーカスしがちだけど、実は心も同じなのよ。性犯罪は心を殺してしまうの」
「だけど…大学の時のは無理矢理されてたとか…そういうことはなかった…。彼との行為は好きではなくても、盗撮を知るまでは彼のことは多分好きだった…」
好きだから行為をしていたはずだけど、盗撮された事のショックと衝撃で、彼を好きだった気持ちをハッキリとは覚えていない。
「今の言葉に一つの答えがあるのよ?」
先生は私の言葉は遮らないし聞いてくれるけど、私の言葉の中にある私の本心を少しずつひも解いていってくれた。
「彼が好きなのに、彼との性行為が嫌い。これは人間生物学的に説明がつかない決定的な矛盾になるの。殴られたり、蹴られたりすることや、同意のない無理矢理な性行為だけが暴力じゃないの。彼の強引な性行為や盗撮は、あなたへの性的虐待行動と言って差支えのないものなの」
性的虐待を受けていたなんて自覚は全くなかった
………違う。
正しい知識を持っていなかった。
本質を見抜けなかった自分が間抜けなんだとずっとずっと思っていた。
「嫌な気持ちで我慢を強いられる行為や盗撮は、恋人間であってもれっきとした虐待よ」
でもでもだって…と繰り返す私に
あの人との行為は渋々でも自分も納得してしていたことだからと思う私に、先生ははっきりと、わたしは全く非がないと言い切ってくれた。
「……傷ついたと……思うことは…おかしくないですか?」
「少しもおかしくないわ。性行為は信頼で成り立つの。パートナーの意志を無視したり、信頼を裏切る行為に傷つかないなんてことはないのよ」
そうだったんだ……
でも信頼で言えば涼太とあの男では比較の対象にすらならない。
お付き合いはまだ長くないけど信頼度は雲泥の差だった。
信頼してて大好きなのに、どうして体は反応してくれないんだろう
「あたしは、今の彼を信頼できていないんでしょうか?」
「それは全く別なの。一度トラウマになってしまうと、いくら彼を好きで信頼していても行為の時に反応がない事例は数多くあるの。起想刺激による心理的苦痛・身体生理反応。つまりフラッシュバック」
涼太に触られていてあの男を思い出すことはない。
だからフラッシュバックと言われても、あたしはいまいちピンと来なかった