第2章 糸口
sideつばき
あの男とのことを忘れたことはないけど、強烈に思い出すこともない。
だからフラッシュバックの意味があたしはよくわからなかった
「トラウマもフラッシュバックも、明らかに症状がある人とそうでない人がいるの。後者の場合、自分でも原因が分からないことが多くて、まさに藤堂さんと同じなの。もっと問題を突き詰めていく必要があるし、パートナーの理解や協力が必要になるけど、信頼できるパートナーがいれば必ず改善していくわ」
「彼に…どうやって話せばいいのか……」
SEXが嫌いだということや自分が何が苦手かは話せても、あの男に何をされたとか言われたとかは言いにくい。
元カレとのそんな事、涼太だって聞きたくないだろうし…
“元カレとはできて自分とはできない”なんて間違っても思わせたくない。
「藤堂さんが話せることだけを話せばいいわ。知って欲しいけど自分では話せないと思うのであれば、私が藤堂さんの許可してくれるところまでを彼に話すこともできます。最初にも言ったけど、焦らないで。ゆっくりでいいわ。私も病院も、ずっとここにいます」
「自分で話せるように頑張ってみますが……先生のお力をまた借りてしまうことになってもいいですか?」
「勿論です。そのための私です。私だけで何とかしてあげることはどうしてもできないの。患者さん本人の意思や私以外の周りの協力がとても大切です。私は患者さんをおんぶして運んであげることはできなけど選ぶ道が歩きやすい道であるように整える存在でいたいと思っています」
涼太が帰ってきて、少し余裕ができたら話そう。
全て話せなくても、自分の言葉で、今の自分の状態を正確に涼太に伝えよう。
先生にお礼をして、涼太に話せたらまた予約を入れることを約束した。
「もしパートナーに話す前に来たくなったら、何時でも予約をしてね。ちょっと待つかもしれないけど予約なしでもお話は聞けるからね」
「はい。ありがとうございます」
「一緒に。ゆっくり進んでいきましょう。諦めなければ必ず出口は見えますから」
涼太と先生はわたしを急かしたり責めたりしない。
既にゆっくりなのに、まだゆっくりでいいと言ってくれる
あたしは、涼太と繋がりたい。
だから、絶対に諦めない
涼太が一緒なら私はなんだって乗り越えられる。