第1章 北風
サンマを焼き始めて、いい匂いだねって3人で七輪を囲んでると、あたしのスマホが鳴り出して相手を見ると大輝だった
「もしもーし」
「お前どこにいんの?」
「え、実家だよ」
「行くなら連絡しろよ。戻ってきていねぇとびっくりすんだろ」
あ、そうだ。
忘れてた
色気より食い気
サンマに気を取られて大輝への連絡をすっかり忘れてた
「えへへ。ごめん」
「ま、いーわ。ちょっと俺もそっち行く用事あっから寄るわ」
「え、そうなの?」
用事ってなんだろ……
大輝とパパは二人で釣りとかに行くくらい仲がいい。
裏庭でサンマを焼きながら大輝が来ることを伝えると、パパも何故か喜んで通りを車が通るたびに大輝じゃないってがっかりしてる
「いいなーあんずは…」
「えー?」
「優しい彼氏と、付き合っててもうるさく言わないパパで」
「何言ってんの。つばきのパパがあれだけ反対したのは相手があれだったからでしょ。人生経験積んでる分本質を見抜いてたって事だよ。大事な娘だもん。感情だけで反対なんてする訳ないよ」
つばきの元カレは酷かった
あたしもつばきもいい人だって思い込んですっかり騙されてたけどつばきのパパだけは会った時から反対してた。
会ったって言っても出先で偶々鉢合わせて挨拶をしたってだけだったから何も知らないくせにってあたしとつばきは思ってた。
だけど…
そいつはとんでもないヤツだった。
あたしたちは高校は女子高で、彼氏なんてものとは無縁の生活を送ってた。
だから男の人を見る目なんてものは当然なくて、男の人と接する機会も多くなかった
でもつばきは可愛かったから駅で他校生に連絡先を聞かれることは全然珍しくなかった。
だけど、つばきはあたしといる方が楽しいって言って全然連絡を返してなかったから、彼氏っていうのができたのはお互いに大学1年になってからだった。
あたしは初めての彼氏とは全然うまくいかなくて3か月で別れたけど、つばきは上手くいってるみたいで2年以上付き合ってた。
だけどその彼氏はつばきとのSEXをこっそり撮影して、仲間内でそれを共有してた。