第1章 北風
sideつばき
それからしばらくはあんずの家でたまに鉢合わせるだけの関係だったけど、ある時連絡先を聞かれて交換
そこから何度も二人で出かけて、プライベートで見せる涼太の笑顔が大好きになった。
それでも、あたしは振られて関係が崩れるのは嫌で、気持ちは伝えずに友達として仲良くできればいいと割り切っていた。
涼太があたしと出かけるのは気を遣わずにいられるからで、あたしを好きで誘ってくれてるなんて全く気付かなかった。
そして、出会ってちょうど一年。
またあのお祭りに行こうって誘ってもらって、あの時と同じようにキャップと眼鏡で変装した、変装しきれていない涼太と一緒に少し暗くなってからお祭りに出かけた。
少しだけ屋台を回ってあの時と同じ場所で花火を見て
今年は肩じゃなくて手をツンツンってされて涼太を見ると、キュッと優しく手を握ってくれた
「……嫌なら、振りほどいていいんスよ」
好きな人に手を握ってもらうことが嫌な訳ない。
だけど涼太が何のつもりで手を握るのかあたしは知りたかった。
涼太はそんなことしないだろうけど、中途半端に遊ばれて大学の時のように男のおもちゃになるのだけは嫌だった。
手は解かないけど、何も言わないあたしに涼太はそっと話しかけてくれた。
「いい彼氏になれるかって言われたら、断言はできない。けど、そうなれる努力はする。仕事柄、聞いてあげられないことも多いし、不自由もさせちゃうと思う。だけど、絶対大事にするから、俺の事、考えてくれねっスか?…好きなんスよ…つばきの事が」
ゆっくりだけど、よどみなく紡がれる言葉は涼太の本心だと、何の疑いもなく信じられた。
「……いつも…考えてるよ…」
「マジで?」
「うん」
嬉しそうに笑ってコツンとおでこがくっつくと、優しく笑う顔が花火の光ではっきりと見えた。
「俺と付き合って」
「よろしく…お願いします」
あたしはこの時、自分の状態を何も分かっていなかった。
あの時のことは完全に過去として吹っ切れていて、社会人になってからできた彼とそういう風になれなかったのは、押しの強い彼に自分の気持ちが追い付いていないからなんだって何の疑いもなく思ってた………