第8章 はち
バシッと両頬に痛みを感じる。
「それをあの子に言ったの??」
「あぁ」
あの子より君のほうが傷ついた顔してるのが、なんだか可笑しい。
「アンタを!…鶴丸を好いているあの子に!!それで、俺の判断で…あぁ、軽率だった。
それを知ってたら、参騎なんて余裕があってもしないよ。刀剣破壊寸前のアンタをあの子はどんな気持ちで」
「加州、だから言ってるんだ尚更」
「何を」
「俺にあの子は勿体なさすぎるんだよ。軽率に言ってるわけじゃない、呪いみたいに別の人間に想いを寄せ続けて、それが嫌だから刀壊くらいがちょうど良いと思っている俺に、あの子は綺麗すぎるんだ」
「…っ、俺が思ってるより、…簡単じゃなかったってこと」
「そうだな。君が思ってるよりきっと、俺は…あの子を想っていてそれを許されないのも痛いほど分かってる。
あの子だからそう想うのか、あの子が似ているからそう想うのか、わからない。
俺が傷をつけたあの子を癒してくれた誰かに、俺のことを忘れさせて欲しい。尻拭いだな、これじゃ」
湯呑みの茶はもうとっくに冷めている。
「それとな、極みの話だが。白状すると、俺は加州の次でも行けない」
「あぁ」
「分かってるだろ、薄々。俺が極みの修行にいったら、終わるんだ」
「そんなの」
「分からないわけないだろ。今までがそうだったんだ。だから、この本丸のみんなが極めても俺は極めない」
「鶴丸」
「強くなくて構わない。今だってそれなりに戦えるしな」
「俺には行っていいって言うのに?」
「君は若いしな、それに主の右腕だ。そんな奴が他の刀に遅れをとっていいものか。
………俺と主が話せば、君は素直に修行に行くんだったか?」
「鶴丸」
「俺と話したらあの子は泣く。修行になんて行けないんじゃないか、心配で」
「あの子を傷つけるの前提なの?」
「前科があるだろ、俺には」
「自分で言うの?」
「自覚が全くないわけじゃないからな。この本丸に降る雨に気付かないふりはしていたが。
……それに、あの子のそばに居てくれる刀はもう俺だけじゃない。君の代わりはいないが、俺の代わりはいるんだ」
「鶴丸」
「すぐにでも話をつけてこよう。そうしたら君は、心置きなく修行に行けるんだろ?」
ヤケクソ、自暴自棄?
俺も青いな。
「鶴丸!!」