第11章 じゅういち
「…」
言い淀む君をみる。
意地悪、そう言いたげな顔。
…たまんないな。
形勢逆転。
君が俺に堕ちる。
目が潤むのは生理現象だって言いそうだな、頬を桜色に染めてその視界には困ったように俺だけを映す。
「君の気持ちも聞きたいんだが」
「…っ」
「無理強いはしないが」
「…って、だって。
だって、私が言ったらまたどっか言っちゃいそうなんだもん」
溜めきれなくて、また君の大きな瞳から雫が溢れる。
「ずるい、…ずるい」
「もうどこも行かない」
「ずるい」
「首輪でもつけとくかい?」
「馬鹿」
「馬鹿って君」
「私の言葉が枷にならないことも、わかってるんだもん」
「この期に及んで、君の言葉以上のものはないんだがな」
こんなにもまっすぐ伝わらないものなのかと、拗らせたのは俺のくせにな。
「…き」
「ん?」
「もう言わない」
蚊の鳴くような声で、聞き逃す。
勿体無いことをしたと眉を下げれば、不安そうに君が顔を上げる。
「私の方が、好きだもんって…言ったの」
…あ、やばい。
やばいって、俺らしくないな。
たまらなくて、思わず口を覆う。
「今度こそ、もう言わない」
恥ずかしそうに俯いてしまったの顔に手をそわせる。
「んっ、」
もう離さない。
これは、呪いだろうか。
…でも、今はまだ答えなんて出さなくていいか。
何度も何度も角度を変えて、極上を味わう。
「苦しい」
君がそっと俺の胸を押す。
俺しか見たことないであろうその表情がたまらなく愛おしい。
…なんて、これじゃあただの男みたいじゃないか。
「鶴丸〜」
「主さ〜ん!」
そっと降り出した雨を視界の端で捉える。
俺たちを呼ぶ声に気付かないフリで、そっと戸を閉めた。
「つるさ、ん」
「ん?」
「いかないと」
悪いことをしている気分だ。
「もう少し」
俺のわがままに君が応える。
「おかしいな、こっちから声聞こえてた気がしたんですけど」
「まぁ、いいんじゃない。そろそろ宴会始まるからなー」
「そうですよ、だからこうして探してるんじゃないですか」
「堀川、あといいよ。戻ろうぜ、主達も子供じゃないんだし」
わざとらしい加州の声を背中に、君の体温を感じる。