第8章 はち
「幻想だな」
「幻想?」
「あぁ。そんなのは幻想だ」
重めの雲が空を覆って行く。
ぽつりと降り出した雨は冷く、自然によるものだと悟った。
「素直になったら、幸せになれると言ったが。じゃあ、素直に打ち明けてやろうか?」
「え」
「雨も降り出したしな、加州には一度話してるし。一度も二度も変わらない」
部屋に招きいれて、鶯丸に貰った茶葉で煮出す。
「君の口に合うと良いが」
「なんかちょっと怖いんだけど」
「失礼なやつだな、素直になれと言っておいて」
「それは、ごめん」
「この前はどこまで話したか。あぁ、本で読んだと誤魔化したんだったか。
…わかってるだろ、アレは俺に起こった本当の話だ」
「だろうね」
「俺はあの二の舞を踏みたくない」
「二の舞になるとは限らないだろ」
「なるんだよ、今までそうだった」
何度も何度も、審神者が変わる。
侵寇だけじゃない、病に伏せた奴もいた。
加州、君は知っていたな、審神者の心のあり方で天気が変わることを。もちろん俺も知っていた。
…病に伏せた主がなくなる前、雨が降り続いていたのも記憶に新しい。
雨が降るたび俺は少し憂鬱になる。
良い思い出がないからな。
いつその時が来るんだろうと怯えてる。
どうして今回は恐怖が先に来るんだろうと、毎夜考える。
そこで気づいたんだ。
今までの記憶の中で一番、この本丸が初めの本丸とリンクすること。
なにより、最近ははっきりと色濃く、君の言葉を借りるなら"面影"が俺を支配する。
それがまるで、カウトダウンみたいで。
あの子が俺を避けてくれて、正直安堵している。
かくれんぼで神隠しのようになったあの子を、きみが連れ去ってしまいそうで怖い。
やっぱり恨んでるだろうな、あんな場所に置いて来たこと。
俺と関わらなければ、他に強い刀がそばにいてくれるのなら、そっちの方が安心だ。
「俺が呪ったのか、呪われたのか。………あの子に孫の面倒を見るように言われて、その必死さに思わず笑ってしまった。そんな先まで共に在ることなんて無理だ」
「無理じゃないだろ」
「ここいらで、刀解して欲しいくらいだとそれを選択肢に出しても、あの子は顔を歪めただけだった。寝覚が悪いなら、政府に突き出してくれて構わないとも告げたんだがな」