第8章 はち

　「面影？」
　「面影だろ。もう会えない、だから、鶴丸はこの本丸にいるんだろ」

　図星すぎて嫌になる。

　「そんなに主じゃだめなのかよ、」
　「なんの話だ」
　「そうやって逸らす。態度は明らかなのに」
　「…っ、」
　「禁忌だって、俺が言ったんだ。主に。そしたら、なんて言ったと思う？
　禁忌を心配しなくても、大丈夫だったって言ったんだ。あんた、どんな言葉であの子を踏み躙ったの？」
　「踏み躙った…か。思ったより、過保護だな」
　「過保護？」
　「片方の想いだけで、成り立つもんじゃないだろ。面影だろうが、なんだろうが、俺が想うのはあの子じゃないってだけさ」
　「じゃあ、なんで目を逸らすんだよ」

　あぁ、なんでそんなに真っ直ぐなんだよ。

　「…鶴丸、俺だってさ。盲目的に言ってるんじゃないんだよ」
　「主贔屓のくせに、良く言うぜ」
　「主の初期刀だからそこは仕方ないだろ」
　「初期刀か、羨ましいな」
　「そう？俺はあんたが羨ましいよ、あんな顔を主にさせるあんたがさ」
　「加州こそ、主をそう見てるなら俺を気にしなければいい」
　「馬鹿」
　「馬鹿って君」
　「とにかく！鶴丸がちゃんと主と話して、俺が納得できないと落ち落ち修行なんて行ってられないの！わかる？」
　「それがわからないんだよ、君は当事者じゃないんだし」
　「なんでこんなにわかりやすく伝えてるのにわからないんだよ！」
　「君が俺と主を無理にでもくっつけたいって言うのは分かる」
　「そこまで分かってるなら、なんで行動にうつさないんだよ！」
　「俺は好きとか、そう言う感情であの子を見てないからだ」
　「じゃあなんで俺が言った嫉妬って言葉に納得してたんだよ！
　主が人間と遊ぶって言って、時間遡行軍の企みで拉致られた時も、アンタは無我夢中だったじゃん！
　かくれんぼで主が行方不明なった時も、見つけたのはアンタだった。
　ここぞって時にアンタは、自分でも分からないくらいに主に対して必死なんだよ、ここのどの刀剣よりも」
　「…忠誠心だよ、」
　「じゃあ、どうして。どうして、予防線張るんだよ。主が想いを寄せたって、普段のアンタならひらりと躱せるだろ？」
　「買い被りすぎだ」

　加州は、俺を睨む。

　「どうして素直にならないんだよ」
　「素直になったとして、この件で得はあるのか？」
　「あるよ、主も鶴丸も幸せになれる」