第8章 はち
刀身に触れる手が震える。
目の前の傷だらけの姿を見て、どうしようもなく怖くなった。
触れて仕舞えば、一瞬で折れてしまいそうな傷。その傷の生々しさも、審神者でいることも。
1番初めに目が覚めたのは、伽羅。
くぐもった声。
「おはよ」
と、声をかけたら驚いた顔をしていた。
「…コイツらは悪くない」
第一声がそれかと、意外性に思わず笑ってしまう。
「馴れ合わないんじゃなかったの?」
「……」
「まぁいいけどさ。私は刀でもないし、男の子でもないから。
でも、みんなには心配かけたんだから、それだけは肝に銘じて」
「……心配をかけて悪かった」
「うん。少し休んだら、みんなに顔見せてあげて。1週間後からは通常業務に戻ってもらうけど、札を使って傷が治ったからって無茶は許さない。絶対安静ね。手合わせもだめ、わかった?」
「…」
「目を逸らさないで。火車君だって、すごく気落ちしてると思うよ」
「わかった」
大の男の見た目というのに、猫みたいにおとなしい。
伽羅の髪を撫でると、ふわふわとしていて意外にも嫌がられず、されるがままで、少しは反省してるのかと思ってそれ以上攻めるのをやめる。
次に目が覚めたのは、清光。
傷の重傷度からして、そうだと予想はついていた。
「…………ん」
「清光」
「……っ!?」
飛び起きて、即座に体を丸めた清光。
痛みを堪えてるみたいに。
「大丈夫?」
「……あ、うん。へいき」
支えると、おとなしくなった。
「清光、私が言いたいことわかる?」
「……それは、」
「これは、審神者として言うね。まず、この本丸の編成は清光に任せてる。それってどういうことか分かってるよね?みんなの命がその手に乗ってるってこと。参騎で出陣するって聞いてなかった、聞いてたら許さなかった。自分の力を過信したんじゃないの?」
酷いことを言っていると、自覚している。
編成を考えてくれてるのだって、私が幼かったから故だ。
清光はこの本丸のことを1番に考えてくれてる、私のことも。
「折れる寸前の重傷で刀を迎えたのは、これで二度目。この時代に検非違使が出ると思わなかったっていうのが理由にできると思う?
お守りを持たせてるとは言え、折れなかったからよかったけど、次は折れるかもしれない」