第8章 はち
「でも、違うなら話は別」
「何が言いたいの?」
「この間雨が降った時、桑名は喜んでた。雨の日は中で過ごしてたやつも多いし、あまり気付いてない刀もいると思う」
こんなに意思の強い目をする子だったのかと、驚く。
「俺も雨の日は普通に中にいる方が好きなんだけど、たまたまお遣いに出て帰った時、この本丸だけが雨だったから。
………本丸の天気、主の気持ちでも左右されることがあるんだって」
「そうなんだ」
「それを知ってから、雨の日は少し外に出るんだ。毎回じゃないけど、最近はそういうことが多いから、気になって」
「心配かけてごめんね」
「違うよ、主。俺が言いたいのはそういうことじゃない。…この本丸の雨に触れると、悲しくて切なくて、寂しいのに温かくて、俺泣きたくなるんだ」
「泣くの?」
「俺の中に染み込んで、溜めきれなくなったら、泣くかも」
「それは困るな」
「主が話したくないなら、それを聞くのは俺の役目じゃないから。…だから、聞かない」
ふわっと笑う。
「俺は犬だからね」
「うん?」
「犬はそばにいるだけだよ。俺は、雨が降ったら主の隣にいる役目が欲しい」
「晴れないと、歌仙が落ち込むよ」
「雨が降らないと、桑名が泣くから。…まぁ、降り過ぎても泣くんだけど」
「そばにいてくれるの」
「主が望んでくれるなら」
「じゃあ、いて」
「わんっ」
雲さんは私を無理に寝かしつけようとか、慰めようとか、そんなことは一切なく、本当にただそばにいてくれた。
それがこの時の私にとって、どれだけの支えになったか。
「それで、雨さんが」
雲さんの話は、江のみんなのことばかりで。
「その時松井が」
「ふふっ、」
「主、笑い事じゃないんだよ。稲葉と豊前も」
「あははっ、もうだめ」
私の知らない、江のみんなは本当に仲良しで。
私の視界が狭かったことに、今更気付いた。
「籠手切もね」
「ねぇ、雲さん。れっすん、楽しい?」
「…楽しいよ、吹っ切れたから」
「そっか」
「主も来る?」
「いいの?」
「みんな喜ぶと思う。あ、じゃあ、明日から俺とコソ練しない?」
「する!!じゃあ、早く寝ないと」
「うん!俺もそうする」
「雲さん、ありがと」
「ううん。それをいうなら、俺も今までありがとう。ずっと言えなかったから」