第8章 はち
「清光は私が聞き分けがいいって思ってるの?」
「いい子すぎるくらいだって、思ってるよ」
部屋に戻っていく清光の背中に向けてつぶやいた、"見る目ないね"って言葉は多分届いてない。
「主」
「雲さん」
「…主、ごめんね」
「なんのこと?」
「俺が蔵に隠れたら?って言ったから」
「そんなことないよ、現に私がいたのは蔵じゃなかったんでしょ。
……って、それを気にして様子伺ってくれてたの?」
「気付いてたんだ」
「こんなんでも、主だからね」
そういうと、雲さんは優しく笑って隣に腰掛けた。
「えへへっ」
「どうしたの?」
「主の隣でこうして座ってお話するの、久しぶりだなって思って」
「たしかに」
「俺が顕現したばかりの頃覚えてる?」
「お腹痛いってずっと言ってたね」
「それは今と変わらない」
「たしかに。あと、売られるとか俺なんかとか、…明るくなったね?」
「主はそんな人間じゃないって、わかったから。雨さんもずっと季語探して楽しそうに笑ってるし、この本丸が穏やかなのも主の人柄あってこそで………って、何?」
「雲さん何か拾って食べた?」
「なんで?」
「そこまで饒舌なのも、私を態とらしく褒めるのもらしくないから」
私の問い詰めに、薄桃色の目が揺れる。
「…………ごめん、清光とのやりとり聞いちゃって」
「どこから?」
「通りかかったのは、さっき。だから、ほんのちょっと…聞き分けがいい悪いの話してるところ」
「そっか」
「俺は清光は、見る目あると思う」
「…」
「聞き分けがいいか悪いかわからないけど、主は俺を二束三文で売ったりしないし、お腹痛いと撫でてくれるし。他にもあるよ、」
これもだし、あれもだし、ここぞとばかりに私を褒める言葉を並べる雲さんに、やっぱり何か悪いものでも食べたんじゃないのって、そう思う私はちょっと失礼かもしれない。
「主、それからね!」
「…雲さん、ありがと」
「もう聞き飽きた?」
「ううん、嬉しかった」
「そっか、よかった。主、俺ね、慰めるの下手だしすぐお腹痛くなっちゃうけど、この本丸が好きだよ。主の作りだす、この空間と仲間達が好き。…だから、心配なの」
「心配?」
「主、知ってる?本丸の天気のこと」
「天気のこと?」
「外と中と同じ天気ならいいんだ。でも」