第8章 はち
「安定、行っちゃったね」
「うん」
安定を送り出した夜、今朝方鶴さんに会った庭の前の縁側に腰掛けていると、湯浴みを終えた清光がそっと隣に座った。
「主、寂しい?」
「まぁね、でも。…強くなるためだから。清光は?」
「うん。寂しいかな。久しぶりだから」
清光は遠くを見つめてる。
「清光、あのさ」
「ん?」
「心配しなくても大丈夫だったよ」
「なんの話?」
「禁忌」
「それって」
「今朝、鶴さんと話したから」
「そっか、だからか…」
「だから…かは、わからないけど。初恋って叶わないってあれ本当だった。少女漫画も役に立つもんだなって、お陰であんまり傷ついてない」
清光の複雑そうな顔。それもそうか、相棒がこんな時にこんな話聞きたくないよね。
「これからは審神者一筋で生きるよ」
「今までもそうだったのに?」
「…これからは、少し違うの」
「どういうこと?」
「審神者であるために、人に戻りたい。私は神でも人でもない、中途半端な存在だから」
「そんな」
「そんなことあるよ。人なら4年に一度しか年を取らないわけない」
「神様だって完璧なわけじゃない」
「神様になったら、あんな顔させなくて済む。鶴さんが、悲しまなくていい世界にできるかもしれない」
「極論すぎ、現に俺だって神様の端くれなのに…にそんな顔させてる」
気落ちしてるだろう清光に、余計追い討ちをかけてしまったと思っても後の祭りだ。
「こんな時ばっか名前呼ぶのずるい」
「俺はずるいんだよ」
「安定帰ってきたら、どこか行こうよ。パーっと気晴らしに付き合ってよ。3人で出かけたの、随分前な気がする」
「いいね。服買いにいこ、俺が選んであげる」
「爪紅もね」
「うん、主が選んでね」
清光は私の欲しい言葉がわかってるみたいに、そう言って立ち上がる。
「そろそろ、部屋入らないと。体冷えるよ」
「もう行くの?」
「悪くないね、それ」
そう言って私の頭を撫でる。
「大きくなったね、主」
「まだまだだよ」
「うん、まだまだだ。大人になるのはゆっくりでいいよ。俺が見守ってるんだから」
「早く大人になりたいのに?っていうか、もう時代が時代なら大人だよ」
「でも。いまはその時代じゃない、だから、もう少し聞き分け悪くてもいいんだ」