第7章 しち
「え、そうなの?」
「反対隣の孫六だったら、まずかったけど。俺のでよかったよ、オレンジジュース久しぶりに飲んだ」
「ごめんね?」
「いいけど、お酒は二十歳になってから。その時みんなでお祝いしようね」
「はーい。じゃあ、どうして私一切記憶ないんだろ?」
「場に酔ったのと、思い込みかな?薬研から前に聞いた話なんだけど、ビタミン剤を風邪薬だと思って飲まされて風邪が治ったって話もあるみたい。
ほら。俺も支度するから、主もしておいで。片付けはその後ね」
出て出てと追い出され、仕方なく部屋に戻る。
早朝の風が気持ちいい。
部屋まで戻ってくると、その戸の前に座る白い影。
なんていうか景色に溶け込んで絵みたいだ。
完璧すぎて、声をかけられない。
誰かを待っているような、誰かとお別れしたみたいな、なんとも言えない顔で、部屋の前の庭を見つめている。
「主」
私を見向きもしないで声をかける鶴さん。
「おはよ」
どんな顔して話せばいいんだろう。
「そうか、ここは審神者部屋の前か」
「うん」
「どこか行ってきたのかい?」
「安定の送迎会の続き、内緒で新撰組の部屋でやってて混ぜてもらった」
昨日聞きたかったことは、もう、忘れてしまった。
「よかったな」
「鶴さんは?」
話とかないと、消えちゃいそうで怖い。
「俺は、酔いを覚ますために歩いてたら、迷子になった」
「迷子?」
「酔ってたからな。広いだろ、この本丸」
「そうだね」
「間抜けだと、自分でも思ったさ。…でも、そしたらこの庭の綺麗さに気付いて、酒が抜けるまでって思ったんだが、もう日が登ってる」
「「鶴さん(主)」」
「なに?」
「俺、忘れられない人間がいるんだ。どうしようもないくらい、だからって君に忠誠心がないわけじゃない。
それだけは本当さ」
せめて、目を見て言って欲しかった。
「…でも、それが君にとって都合が悪いなら、俺を刀解してもいい。刀壊が寝覚が悪いというなら、政府に突き出しても構わない」
こんなに苦しくなるものだと、知らなかった。
こんなに早く終わるものだと、思わなかった。
「そんなこと、しないよ。鶴さんはうちの大事な一振り、私のお世話係でしょ?…困るよ、結婚式では鶴さんと清光に、バージンロードで手を引いて貰うんだから」