第7章 しち
「それに、孫の面倒だって見て貰うんだから」
「子じゃなくて?」
精一杯の強がり。
「孫。だって、2人は私の親みたいなものでしょ。
でも、どっちかって選べないし。…可愛いよ私の子供は」
「そうだな、…酔いもさめたし、戻る」
ねぇ、だからさ、鶴さん。
「うん」
だから、どこにも行かないでね。
隠した方がいいなら、捨てた方がいいなら、こんな想い自分でどうにかするから。
「なぁ」
「うん?」
「迷子の俺に、言って欲しい言葉があるんだが」
「なに?」
「俺の名前呼んでくれないか?」
「そんなこと?いいよ、"鶴さん"」
やけに安心した顔で、でも悲しくて。
「君が呼んでくれたら、迷わないでどこにでもいけそうだ」
「……ここにいてくれるなら、何回だって呼んであげる」
その言葉に笑ってくれたのは、気のせい?
「じゃあ、また。支度したら大広間で片付けだよな」
立ち上がり、背伸びをしていった鶴さんの背中が滲む。
ちゃんと自分で拭えたことは、讃えよう。
私は、まだ子供かもしれないけど、自分で涙は拭える。
この気持ちだって、蓋をできる。
ボロボロとこぼれ落ちる涙に共鳴するみたいに、空が曇り始めてやがて雨が降る。
支度を終えて、大広間に向かうともうだいぶ片付いていた。
「安定、」
「主おはよう、雨降ってきちゃった」
「うん、風邪ひかないようにあったかくしていくんだよ」
降り出した雨はどこに流れて、何をつくるんだろう。
「うん。これ以上雨が強くならないうちに、出ようと思うんだ」
「わかった」
「強くなって帰ってくるよ、この本丸と主と僕のために」
「うん。待ってる」
私の髪を一節掬って、そこにキスを落とした安定。
「現実でするの、初めて見た」
「僕も初めてした。ふふっ、なんか、落ち着かないんだ。慣れないことするくらい」
「安定、主ー!」
「そろそろだ。行ってきます、主」
「行ってらっしゃい、安定」
送り出すということは、こんな気持ちになるのか。
待っているということは、こんなに不安になるものなのか。
3日とは言えそばにいた人が居なくなる…ということは。
笑顔で送り出したかったのに。
でも、この涙が安定のためだと信じたい。
心に浮かんだ切なさが、安定のためだと信じたい。