第7章 しち
夜目が効かないはずなのに、はっきりと。
「主!!」
とくんとくんと心臓が速くなっていく。
じんわりと汗がながれる。
「主!!……見つけた」
その暗闇は、昔大切な人を置いてきた場所に似ている。
蔵というのに、物一つない。
冷静になればそこが異様な空間だとわかるのに、心が囚われて判断が鈍る。
抱きしめなければ、もう、消えてしまうんじゃないかという焦りで、思わず伸ばした腕に力が籠る。
魔法が解けるみたいに、蔵が消える。
「はぁ、よかった…」
まだ、命を刻む音が聞こえる。
その時はっきり聞き取れた、俺を呼ぶ声。
"国永"
俺をそう呼ぶのは1人しかいない。
「帰ろう、アイツらとやり直そう…、そうだ、初期刀の国広なら…っ、」
違うだろう、初期刀は加州清光だろう。
…わかってる。
「また立て直してさ、大丈夫だ。みんなでやれば、こんなの…。
主が大好きな、ふかふかの布団で………」
俺は、誰を見てるんだ?
何を、見てるんだ?
「鶴丸!!」
加州の声で、我に帰る。
「よかった、何?主こんなところで寝てたの?」
ぎゅっと、また腕に力が籠る。
「鶴丸?……お前、どんな顔してるんだよ」
そんなの知るか。
「………加州、悪いなんでもない。取り乱しただけだ」
主を抱えあげて、それを加州に差し出す。
「悪いが頼めるか?」
「え?それはもちろんいいけど。…鶴丸」
「嫌な幻を見た。…主に何か憑いてるのかもしれない。祓える奴らにどうにかしてもらった方がいいかもな」
「幻?」
「俺も少し休む、気に当てられたかもしれない」
「わかった。当番代わっておく、昼は?」
「いい。すまないな」
「わかった」
「主に、何か変わったことがあったら、教えてほしい」
「それはもちろんいいけど」
そう言って別れて、部屋に戻ると読書をする伽羅坊がいて。
俺と目が合うとギョッとしているのを感じる。
「…何があった?」
「……いや」
「わかった、少し寝ろ」
「そのつもりさ」
布団を敷いてくれた伽羅坊に礼を言う。
「…………‥伽羅坊」
「なんだ」
「俺は…」
「お前は、この本丸の鶴丸国永だ。それ以上も以下もない」
「なんでもお見通しかよ」
そっと気が落ち着いていく。