第7章 しち
だけど、少しでも見てくれるんじゃないかって淡い期待。
…手軽に、私にしておけば?
なんて、出てきた考えはだいぶ私らしくない。
誘惑するように伝えたところで、鶴さんはその手に靡くタイプじゃないことくらいわかってる。
"嬉しい"って、言ってくれないかな。
都合のいい解釈に笑ってしまう。
「もし、見つけてくれたら…いっちゃおうかな」
誰もいないことをいいことに呟いた言葉が、暗闇に消えてく。
「鶴さんが、好き…鶴丸、国永。………国永か」
パズルのピースがはまるように、スッと馴染んでいく。
「国永…」
その時思い出したのは、初めて会ったときの鶴さんの顔。
迷子みたいに、困ったような顔をしていた。
みんなとは違う呼び方をしたいと言った私を、そっと諫めたのは他でもない鶴さんだ。
…呼べない。
もう、呼ばない。
鶴さんって呼べるだけ十分だ。
でもどうしてこんなにしっくりきて、泣きたくなるような気持ちがするんだろう?
どうして、記憶の中の鶴さんが私を抱きしめて泣いてるんだろう。
夢の中にでもいるんだろうか。
降り頻る雨の中、悲痛に歪んだ顔で私の名前を呼ぶ。
ごめんって、何度も言う。
それは、私のセリフだよって、ひとりにしてごめんねって。
泣かないで、…。
“俺なんて、放っておけば良かったんだ…”
鶴さんが言いそうなことだと思う。
そんなのできるわけないよ、こんなに大切なのに。
私をそっと瓦礫の上に寝かせる。
最後にひとつキスを残して。
やけに生々しく、残る感触。
流れ込んでくる温かい気持ち。
愛されていたんだと、錯覚する。
「……まって」
さすが気持ち悪くない?
気持ち悪いだろ、私!!
待ち合わせてない記憶を、捏造するにもほどがある。
神様仏様、国永様!!どうかお許しください!
って、国永様ってなんだよ!!
「…じ、主!!……見つけた」
戸が開いたのがわからないくらい、妄想してたなんて。
逆光でわからないけど、…と思った瞬間香ったのは、よく知ってる香り。
とくんとくんと心臓が速くなる。
じんわりと汗が滲んでいる。
力のこもった腕。
「はぁ、よかった…」
噛み締めるような、声。
ねぇ、夢?夢でしょ、これは。
「…永」
そこでプツンと途切れる。