第7章 しち
高い位置にある窓が開いているだけまだいい。
それでも暗いけど。
蔵の中には先生のガラクタとか、まんばちゃんが日銭稼ぎの合間に作った作品とか歌仙の花器とか、兼さんの詩集とかそんなのばっかりだ。
整理されてるんじゃないの?って思うくらい、ぐちゃぐちゃだ。
全く、雲さんの話と全然違うじゃないか。
何かにぶつかって壊したり、怪我したりするのが嫌で、埃だらけのその場所に適当に丸くなる。
目を瞑れば、暗さなんてきにならない。
案外、快適なくらいかもしれない。
そのうち誰か見つけにきてくれるだろうと、余裕をかましていたのは他でもない私だ。
やけに静かだ。
物音ひとつしない。
窓から風がたまに吹き込むだけ。
……。
案外、怖いかもしれない。
カサカサっとか、そんな音がしないだけましだけど。
誰でもいいから、早く見つけてほしい。
念を送ったら来てくれないだろうか。
テレパシーみたいな。
「鶴さん…っ」
言ってからすごく後悔をする。
パッと浮かんだのが、清光でもなく鶴さんなのも、ちょっと自分的には薄情な気がして。
こう言う時に通じるなら初期刀でしょ、どう考えたって。
""
一度考えてしまったら、もう遅い。やけに耳に残るような、甘い声で、私の名前を呼ぶ鶴さんが想像できてしまって、もう無理だ。
…その唇で私の名前を呼んだことなんて、ないのに。
実際呼ばれたら、どんな気持ちがするんだろう。
どんなふうに呼んでくれるんだろう?
大切なものを扱うように、幼い頃抱き上げてくれたときのような感じで、ふんわり優しく。
…あの頃の私幸せだったな。
今思いだせるのは、鶴さんや清光達がくれた優しい思い出だけ。
鶴さんの私を見る眼差し。
あぁ、私何を今更意識してたんだろう。
鶴さんはずっと変わらないのに。
…変わらないから、こんな想い抱いちゃったのかもしれないけど。
違うか。
この想いだって、多分ずっと昔から変わらない。
ただ、成長して想いに名前がついただけだ。
そばにいてくれたから、気づかなかっただけで。
私が、鈍感だっただけで。
………もし。
もしこの気持ちを伝えたら、きっと鶴さんは飛んでいっちゃう。
そんなこと、想像しなくても分かる。
わかってる。