第1章 いち
「じゃあ、巴。後よろしく」
「あい、わかった」
…巴形薙刀か。
今までも他の本丸で共にあったことはあったが、そこまで話したことはないんだよな。
まぁ、悪い奴ではないんだろうが。
「…鶴丸と言ったか。薙刀、巴形だ。銘も逸話も持たぬ、物語なき巴形の集まり。それが俺だ」
「あぁ、よろしく。俺は鶴丸国永だ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんだよ?」
「あぁ、いや。なんでもない、では行こう」
のそっと立ち上がった時の上背に少し驚く。
「何度か会ったことがある」
「ん?あぁ、俺にかい」
「そうだ」
演練の話か、はたまた別か。
この本丸に、俺は顕現してなかった様だが。
…しかし話が見えないな。
「…今日は俺だが、明日明後日と長引く様なら、明日は静形。その次は岩融と共に回ることになる」
「世話をかける」
「これも俺の役目だ。俺がまず、部隊長をやってみせる」
「あぁ」
「次からしばらくは、鶴丸に一任する」
「え?」
「だから、よく見ておいてくれ」
「…わかった」
ーーー…何戦か部隊長としての役割を一通りこなして見せた後、2度目の出陣以降巴は宣言の通り俺に全て一任。
疲労が蓄積するまで、何度も同じことをさせられた。
…何度も何度も。
「鶴丸、今日はここまでにしよう」
「…あぁ」
お陰で、一日でも経験値はそれなりに上がったように思う。
「明日は静形がつく」
「わかった」
…驚きだな。
こんなことは初めてだ。
刀が編成を決めている事もだが、顕現してからずっと今までの"俺の意思"があることも。
「今日はどうだった」
「なかなか、いい驚きに溢れていた」
「それは良かったな」
「本当に、世話になった」
転送ゲートを潜ってすぐ、巴の雰囲気が柔らかくなったのと同時に、己の体に触れた霊力の質に、本能的に走り出しそうになった。
…どうしてこんな思いに駆られるのか。
「主が帰って来て居るようだな」
「分かるのか」
「あぁ。俺たちの姿を見たら驚かせてしまうだろう。先に風呂場だ」
「報告はいいのかい?」
「戦の後はよほどのことがない限り、報告は後にしている。ここの約束事の一つだ」
「それはどうして」
「会えばわかる」
俺の今回の主は一体どんな人間なのか。