第7章 しち
お互い様です、とまた優しく笑ってくれる。
「良かったらこの後お茶でも、」
「えぇ、ぜひ」
二つ返事でうなづいた私。
「そういえば、名前聞いてませんでしたね」
「あ、そうでしたよね」
"いい、約束して。
真名は絶対に教えちゃいけない、俺たちみたいなのには絶対"
昔、誰かに言われた言葉をどうして今思い出すんだろう。
いつのまにか夕方になっていたのか、空が暗い。
雨が降りそうで、だから余計お茶の誘いになってもいいかなっておもったわけで。
「すみません、名乗らずに」
「いえ、僕もですから。お伺いしても?」
…でもさ、友達だし。
これから、友達になるんだし。
男の子が来るって言っても何も言ってなかったし。
誰に言ったんだっけ。
「えっと、」
あやしく、眼の奥が光ったような気がした。
「あぁ、すみません。雨が降りそうですし、お店入ってからでもゆっくり」
「あ、はい」
とくんとくんと、胸が鳴る。
「あの、どこまで行くんですか?」
「この先に行キつけガあって」
寒気がする。
私、本当に風邪でもひいちゃった?
「あァ、迷ってしまったみたいデす」
幻術が解けるみたいに。
「しかタなイです、ね。なま、エヲ」
崩れてく、ヒトの形。
大きく禍々しく、黒い影。
空が不自然な赤く染る。
「言えぇえええええええ!!!!」
腰が抜ける。
立てるわけもない。
こんなことなら、私、まだカラオケにいれば良かった。
距離が近くても、匂いがきつくても、別にこんなことに比べれば…。
「…ッ、」
""
もうダメかと思った時、名前を呼ばれたような気がして、縋るように助けてと声にもならずに祈る。
その時、視界が白く染まった。
「よぉ、俺みたいのが突然来て驚いたか?」
「…なんで」
「主、悪いけど下がっててくれ。
らしくもなく、気が立っているんでね」
「あーらら、鶴丸行っちゃったよ。大丈夫、主?怪我はない?」
「安定…」
「清光もきてるよ。安心して、本丸に帰ろう」
「どうして」
「僕?僕はつきそい。清光は鶴丸のストッパー役だけど、あいつすぐ頭に血上っちゃうからね、僕がその清光のストッパー役ってこと」
安定が、私を立ち上がらせる。