第7章 しち
「ここへはお友達と?」
わざわざ自販機で買ってくれた水を手渡してくれたその人。
「はい、」
財布を出そうとすると断られた。
「そうですか。僕もなんです。でも、僕カラオケが苦手で」
「…」
「…って、すみません。こんな話」
嫌な気がしなかったのは、少し、似てたからかもしれない。
誰かと聞かれると難しくて答えられないけど、その隣は安心できた。
「…いえ、私も苦手で。初めて来て…」
「そうですか」
「私、友達できたことがなくて。つくるのも面倒で…でも、この間初めて声をかけてくれた子が、今日誘ってくれて。
家族がすごく喜んでくれたんです」
「それは、よかっですね」
「……ちっとも、よくないです。…このワンピースを買ってくれた人、全然わかってくれなくて」
「なにを?」
「私は友達に誘われたって言った時、男の子もいるって言ったんです」
「うん」
「断れって言って欲しかったの。…服も、その人が着ているのに似てるワンピースが本当は欲しくて、でもその人、透けるとか…ッてすみません、男性に言うことじゃないですね」
「……ふふっ、」
「やっぱり、おかしいですか」
「いえ、可愛いなと思いました」
ぼっと、顔が熱くなるのを感じる。
そういえば、"可愛い"なんて清光や乱ちゃんくらいにしか言われたことないと言うことに気づく。
あの刀達は息を吐くように可愛いというから、もう慣れてしまっていたけど、他に言われる"可愛い"は、案外威力が強いことを知る。
「…って、すみません。体調、落ち着きました?」
「はい」
「あの、見ず知らずの僕がこんなこと言うのは可笑しいと思うのですが」
「えぇ」
「嫌なら、帰りませんか?」
「どう言うことですか?」
「僕を理由にすればいい、途中まで送ります。でも、友達さんにはきちんと伝えないと、せっかくできた友達なんでしょう?」
「いいんですか?」
「ええ。僕に任せてください」
いい人だなって思った。
ハンカチも貸してくれて。親切で。
誘ってくれた友達の部屋に戻ると、いい感じに盛り上がっていて、体調が悪いから抜けると伝えれば案外簡単に、その輪を抜けることができた。
「ありがとうございます」
「いえ、僕は隣にいただけです。あなたのおかげで、僕も抜けてくることができましたし」