第7章 しち
待ち合わせ場所に着いてすぐ、嫌な気配を感じる。
「ちゃん!こっち!!」
"友達"に、声をかけられて振り向いてるうちに、感じなくなって、気のせいかと胸を撫で下ろす。
護衛がないのは初めてで、それが余計に警戒心を駆り立てる。
こんなことなら誰かに、例えば乱ちゃんとかに着いてきて貰えばよかった。
「お待たせ、その遅くなってごめんね」
「そんなことないよ!じゃあ行こっか」
誰も知らない、数人のグループ。
こんなに束になって歩いたことない。
「カラオケでも行こうか!」
誰かの誘いに、みんながいいねとうなづく。
初めてだった。
カラオケ?なにそれ、みたいな。
大きな液晶に、数本のマイク。
籠手切が喜びそうだと思った。
ケーキに並ぶいちごとホイップみたいに、男女で交互に座る。
当然私の両隣も男の子。
見たこともなくて、多分他校の子だと思う。
「って言うんだよね」
話かけられても、音で消される。
「ちゃんかわいいね」
「ちょっと、俺が話しかけてたんだけど」
距離が近い。
肩を組まれて、マーキングみたいに香水の匂いを押し付けられて。
「あの、やめてください」
他の子達は楽しそう。
私1人、おかしいのかもしれない。
「連れないこと言わないでさ」
「ちゃんタイプなんだよねー!」
「抜け駆けやめろよな」
…楽しくない。
「ごめんなさい、私お手洗いに」
すみませんと頭を下げながら、その部屋を出る。
頭が痛い。
お手洗いに着く前に力尽きる。
邪魔にならないように、小さく座り込んだ。
慣れないことだから、慣れなきゃいけないことだから。
だって、あんなに喜んでくれた。
新しい友達ができたこと、遊びに誘われたこと。
でも私、知らない人に触れられた部分が嫌。
鼻に残る香水の匂いが嫌。
…なんて、わがままだ。
「大丈夫ですか?」
「…え?」
聞き慣れた声な気がして顔を上げる。
差し出されたハンカチは黒。
「体調が悪いのであれば、病院に」
「いえ…だいじょうぶです」
「そうですか。よかったら、ベンチまで移動しませんか?」
「あ、はい」
"失礼します"と、支えられた肩。
嫌な気はしなかった。