第7章 しち
「鶴さんに選んで欲しい。ちょっとセンス無くても、小物は清光とか乱ちゃんに貸してもらうから」
「わかった」
なんか少し、モヤモヤする。
その正体がわからない。
レディースの洋服屋さんは、鶴さんには入りずらいらしい。
でも一緒に来てと、半ば無理やり引き入れた。
私が選んだ白い可愛いワンピースと、鶴さんが選んだ無難な量産型のワンピース。
鶴さんの戦闘服みたいな、白い可愛いワンピースは下着が透けそうだからと却下された。
俺が選んだからとプレゼントされても、やっぱりなんか嬉しくない。
カバンも靴もセットで買ってくれた。
ゼロが多くても、お金を普段使わないからと奮発してくれた鶴さん。
こんなの、全然嬉しくない。
「ありがと、似合う?」
「いいんじゃないか?」
「大事に着るね」
「あぁ」
本丸のゲートに着いた瞬間、降り出した雨。
最悪。
外は晴れていたのに。
「珍しいな、」
「うん、でも。雨も必要だって桑名が言ってたから」
裏腹なことを言いながら、玄関の棚に出してくれてたバスタオルで鶴さんを拭く。
「主」
「私は過保護のみんなに、多分今からお風呂入れっていわれるから、…それに鶴さんは"刀"でしょ。私の愛刀が錆びたら困る」
「悪いな」
「荷物ありがと。重いのに」
「おう。…じゃあ、あと運んでおくから」
「ありがとう。お風呂入ってくる」
廊下を少し濡らしながら、鶴さんと別れる。
「主?!」
「いち兄」
「雨に濡れたんですね、タオルは?」
「お風呂入るから別にいいかなって。洗い物増えちゃうし」
「そう言う問題じゃありません」
「お風呂沸いてるでしょ?」
「えぇ、湯を張ってありますよ。ですが、風邪をひいてしまっては」
「…うるさいな。大丈夫だって、」
…こんなの八つ当たりだ。
「ごめん、心配してくれてありがとう」
こんな感情的になってたんじゃ、審神者なんて務まらない。
一度深く呼吸をして、気持ちを整える。
「いえ。温かい飲み物でも淹れておきますので、しっかり温まってきてください」
「うん」
いち兄は気にしてない様子で、微笑んだ。
あぁ、嫌だな。私だけがいつまでも幼い。
もやもやの正体だってわからない。
ワンピースはまた買えばいい。
雨は洗い流せばいい。