第7章 しち
例えば校舎裏のたんぽぽが咲いたとか、そんな他愛もないことでさえ、鶴さんは楽しそうに聞いてくれる。
昔からそうだ。
「さん!」
いつもみんなに、"主"と呼ばれるから、苗字呼びなんて特になれない。
そんなことより、誰だっけ。
「今年も同じクラス、よろしくね」
「あぁ、うん。よろしく」
「緊張したぁ、同じクラスだった仲のいい子たちクラスはなれちゃってさ」
「そうなんだ」
学年が上がるタイミングだけ、留まることが許されているから、今年は久しぶりの持ち上がり。
そんな生活を送っているから、友達なんていないし、作るのもめんどくさいと怠けていたのは私。
「ちゃんって呼んでもいい?」
「うん」
今日はたんぽぽの蕾は見つけなくて良さそうだと、片隅で考える。
「よかったぁ、…話してみたかったの」
「わたしと?」
「うん。ちゃん、学校で落ち着いてる雰囲気だし、1人が好きなのかなって思って」
「そんなことないよ。家ではもう少ししおらしくしたほうがいいって言われる」
「えー、そうなんだ。意外」
名前を聞くタイミングを逃してしまったと思いながら、隣を歩く。
「そういえばさ、朝も帰りも一緒にいる人って彼氏さん?」
「へ?」
思わず足を止める。
「あ、違うよ」
「え!そうなの??なんだぁ、噂になってたから気になってたんだ。立ち入ったこと聞いちゃってごめんね」
「ううん。噂?」
「いいのいいの、気にしないで。そうなんだぁ、かっこいい人連れてるって、彼氏だったらお似合いなのに」
「そんな、早いよ。まだ高校生なんだから」
「え?古風すぎない?今時小学生だって付き合ってるよ」
「嘘」
「ほんとほんとー。そうなんだぁ、あの人のこと好きなの?」
「は?…あ、まぁ…うん。家族みたいな感じだから、好きだよ」
「えー、そういんじゃなくてさー」
…あぁ、つまらない。
家族の好きで何が悪いんだろう。
全く話についていけない。
名前の知らない、新しい友達。
「じゃあ、彼氏!彼氏作ろうよっ」
「え?」
「今度違う学校の子達と遊ぶの、ちゃんもおいでよ。かっこいい子いっぱい来るよ!」
ありがちな展開。
「私はそう言うのは」
断るつもりだった。