第6章 ろく
落ちそうになったシーツを持ち直す。
「彼女も、そうだったらよかったな。…まぁ。侵寇が来ちまったら、意味ないか」
前を歩いてたはずの加州が足を止めていたことに気づいて、俺は振り返る。
「…なんてな。どうだ、驚いただろ?主を学校まで送り届けたあと、図書館で時間を潰したんだが、そこにあった本が驚きの面白さでな。
持ち出し禁止じゃなければ、借りてきて見せることも出来たんだが、これはその一節で」
「鶴丸は、…アンタは、鍛刀できたわけじゃない。政府が用意した戦力拡大の為の、練習場でドロップしたんだ」
「そうか」
「あれって、どんな仕組みかも分からなかった、考えようともしなかった。…そう言う仕組みってこと?」
「さぁな。俺は本の一節を」
「じじぃとか、長義なら知ってるかな。…って、どうしてそれ今話してくれたの?」
あの日と同じ紅い瞳に、強い眼差し。俺に向き合おうとしているのが、ひしひしと伝わる。
「政府に関係があっても、わからないと思うぜ。俺たちの計り知れないところの話だ。本来は持つことを許されない、消されなきゃいけない記憶だからな」
「質問と合ってない」
「すまない。…白状すると、つまりは、似てるんだ。彼女と主。姿形だけじゃなく、魂の形まで」
「ん?」
「初めて会った時は驚いた。彼女が小さくなってまた、俺に会いに来たんだって…違うか、俺が会いにきたのか。
まぁ、どっちでもいいか」
「それって、主が鶴丸の想いを寄せてる人ってことじゃないの?」
「…違うんだ、俺にとっては。…と、最近気がついた。主も当たり前に、その頃の記憶なんて持ち合わせてないしな。俺のことを"国永"って呼ぶんだ。彼女だけが、そう呼ぶ。もう声も覚えてないんだが」
こんな昔話をしただけで、彼女を愛おしく思っていたあの頃の気持ちが蘇る。
「そう」
「また話がそれたな。すまない、ジジィなもんで…どうして話たか、な。確かに、今までなら話していないな。…年頃になって、彼女に似てきたあの子を見たら、どうしても誰かに聞いて欲しくなった。
誰かじゃないな、加州に聞いて欲しいって思ったんだろうな、あの時はぐらかして悪かった」
「…仕方ないな、今話したから許す」
「そうか。…あぁ、でも、いまの主に忠誠を誓ってるわけだから、この話は内密に頼む、終わったことだしな」
「ん」
