第6章 ろく
「全部違うんだ、じゃあ…刀の頃の持ち主とか?」
「まぁ、審神者って言うのは当たりかな。俺を庇って亡くなった。…侵寇にあったんだ。初期刀は山姥切、俺はしんがりを仰せつかった。
あの日は雨が降っていた。…自分が泣いてるのか、雨が伝ったのか分からなかった。俺の腕にスッと収まるんだ、血が温かくてさ。審神者を討伐したら、あいつら見事にひいてった。酷い話だ」
「鶴丸?」
「政府の狐が言うんだよ。審神者の代わりはいるって。審神者の霊力が高かったって言うのと、侵寇があるまでいたって正常な本丸だったって事で刀壊にはならなかった。使った資材の方が勿体無いってさ、淡々と言うんだ」
夢に見ることは無くなったが、今でも鮮明に思い出せる。
「ほかの刀(やつら)は、どうしてるか俺には検討もつかない。…でも、政府に回収されてったから俺みたいに何度も何度も使い回されているかもしれないし、どこかで折れたかもしれない。
一度強力な術式で、記憶を消されるんだ。
何もかも覚えてる刀がドロップされるなんて、厄介だろ。
でも、この記憶は消えない。不出来なせいか、不完全なせいか。人に想いを寄せてしまったのも」
「…」
「侵攻に負けたからって、別に弱いわけじゃなかったんだぜ。この本丸と同じくらい強かった。彼女は采配が得意でさ、戦では人が変わるんだ。俺たちを守るためって、口酸っぱく言ってたな。寝る間も惜しんで勉強したりして、努力家なんだ。俺たちのことに関しては。
戦以外はすこし抜けてて、お転婆で、寝顔が可愛くてさ、端末の待ち受けにしたら怒るんだ。それすらも愛おしくてな。
でも、俺は刀だからってそん時も…まぁようは逃げたんだな。向き合うのが怖かった。俺が折れるのも、彼女の命の終わりも。
だから、彼女が俺に向けていてくれた想いに気付かないフリをずっとして、自分の気持ちを素直に伝えればと後悔したのは、彼女の最期」
「…」
「血に濡れてるのに、綺麗な顔だった。六文銭すら持たせてやれなくて装束の飾りを握らせたんだ。
亡骸は今どこにあるんだろうな、放棄された世界と同じように閉じたんだ。彷徨ってるかもしれないが、魂は輪廻に戻ったんだと安心したのには、流石に自分でも引いたな。我ながら身勝手だった。
まぁ、そう言う面ではいいよな。4年に一度歳をとるなら、人の寿命より長くいられる可能性が増える」
