第1章 いち
何回目の"初めて"だろう。
『よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?』
俺が初めてを何度も繰り返していることに気づいたのは、100を過ぎた頃か。
『へぇ、本当に真っ白くて鶴みたいだね』
ほんわかと微笑んだこの女が、次の主。
そして、俺のせいでまた"似たような最後"を辿るのか。
『今ね、近侍の子がちょっと席を外してて』
『あぁ』
『代わりに、…雨ちゃん!』
『頭、お呼びですか?』
シュタッと頭上から音もなく降りて来たこいつは、確か…五月雨と言ったか。
『驚いた』
『ふふっ、あなたはこういうの好きかと思って。気づかなかったでしょう?彼は』
『私は、郷義弘が作刀、名物、五月雨江』
『かわいいでしょ。ふふっ』
今回の主は、よく笑う人間だと思った。
『雨ちゃん、雲ちゃんと一緒にでもいいから、鶴さんに本丸の案内お願いできるかな?近侍の長谷部さんにはちょっとお使いお願いしちゃって、伊達の子達は戦出てもらってるし、三条の子たちは今遠征中で』
『はい、頭の頼みとあらば』
『お願いね』
五月雨は、案外面白いやつだった。
本丸の案内がてら、これもあれも季語だと指を刺す。
相棒の村雲は、少し陰気だと思った。
腹が痛いと、…今思えば人見知り…いや、刀見知りか。
緊張していたんだな。
だけど、いつの間にか打ち解けて、今では2人で呑んだりもする仲になるとは、初めは思わなかったな。
ー…雨が降る夜だった。
五月雨は夜戦へとでかけて、それを待つ村雲が珍しく縁側で佇んでいたから、俺は無言で隣に腰掛けた。
『鶴さん。鶴さんも呑む?』
『なんだ、飲んでたのか』
『ぐっ、わかってたでしょ?ありつきに来たくせに』
『ははっ、バレてたか』
『バレバレだよ。…雨さんが夜にいないの久しぶりなんだ』
『そうか』
『…鶴さんは、雨さんに似てる』
『俺が五月雨に?』
『……嘘。やっぱり俺に似てるのかも』
『俺はどちらにも似てない気がする。お前たち2人の方がよっぽど…キラキラしてるしな。すていじ?だっけ、あれのレッスンのお陰か?』
『そういうとこ、意地悪だ。お腹痛くなる』
『ははっ、…まぁでも、雨を見ながら飲むのも一興だな』
『うん』
俺は、楽だった。
昔馴染みでも主びいきでもない、村雲と呑む酒が。