第1章 いち
『お帰り、光坊。どうだった、修行は』
『行き先は迷ったんだけどね、結局仙台にした。沢山学んできたよ』
『そうか』
逞しく成長を遂げた光坊を見て、俺の心が歩みを止めた。
『鶴さんは?』
俺は。
『ん?…あぁ、このところ落ち着いて来てる。それを伝えたら、主からも、もう大丈夫だと太鼓判を貰った。近侍の役目を君に返そう』
『返そうなんて、そんなこと…いいんだよ。鶴さんに任せたからこそ、僕は真の格好良さを学ぶことができたんだ。鶴さんだからこそ、任せられたんだ』
『それは、…それは光栄だな。けど、やはり俺には荷が重いぜ。霊力を安定させる為とはいえ、近侍では驚きを仕掛ける間も無く仕事を押し付け…与えられるしな』
…俺は、光坊みたいにはなれない。
なりたくない。
『ははは、鶴さんらしいと言えばらしいけど、仕事はキチンとしないと』
『そうだな。光坊の言葉を借りるなら、格好つかないな』
『そうだよ、ふふっ』
『けど、本当に変わってくれないか?俺の修行もいつ来るかわからないしな』
『もう…仕方ない、主に打診してみようか』
『さっすが、光坊!そう来なくっちゃな!!』
それから間も無く、次は俺が極みの修行に出ることになった。
その頃には、夢と現実の境がよくわからなくなっていた。
ただ、…唯一、きみの顔は思い出せなかったが。
『鶴丸〜っ、あっという間だったなぁ』
『あははっ、君、すごい顔だぜ?』
俺に抱きついて、涙を流す大の男の主を見て苦笑せざるおえない。
こんなに俺のことを思ってくれる主のためにも、俺は夢を打ち切らねばと思っていた。
『ほら、主。鶴さんも、もう出発しないと』
『分かってるが、こればっかりは』
…だから、きみがヘソを曲げてしまったのかもしれないな。
きみをあんな場所に置いて来た俺が、平気な顔して違う人間を主と呼んで仕えている。
『行ってくる』
それがきっと、許せなかったんだろうな。
主の腕をゆっくりとほどき手を真上に掲げ、俺は修行に出た。
『鶴さんの好物作って、主やみんなと待っているから!』
…ごめんな、光坊。
こうなったのは多分、俺のせいだ。
『鶴丸国永』
『あぁ。最後の手紙だ、頼む』
『いえ、そうではありません。実は…』
その時俺はまた、"政府の刀"になった。