第4章 し
きみの"特別"って言葉一つで気持ちが舞い上がりそうだ。
そんな己の中にある矛盾した気持ちさえ、きみの魂の形が似ているからだということのせいにして、俺は目を閉じる。
「つるさん、おくれちゃう」
どのくらいたったのかわからない。
ただ、君を抱きしめた時の体温が残る。
「そうだな、…ところで、今からどこに行くんだ?」
「よーちえん、ほいくえんもいったことあるよ!」
「よーちえん?」
「おともだち!いっぱいいるよ」
「そうか。いいなぁ」
「そうでもないよ」
「え?」
「みんな、わすれちゃうから」
少し悲しそうな顔が、俺の心をぎゅっと掴んだ。
「俺は、きみのこと絶対に忘れない」
「つるさん?」
「みんな忘れてしまうなら、俺だけは覚えておこう。絶対に」
忘れたいと願っても、"きみ"を未だに忘れられない俺が言うんだから、絶対だろ?
「…じゃあ、だいじょうぶだね」
「あぁ」
「つるさん、だっこしてて」
「あぁ」
「ずっとだよ?ずっと。ようちえん、つくまで」
「あぁ、わかった」
きみのかわいい我儘。それくらいいくらでも付き合うさ。
「つるさんは、やっぱりやさしい」
「きみにだけさ」
愛しいきみには一等優しく、あまく。
俺から離れて行かないように。
もう、離れなくてすむように。
"ようちえん"とやらについて、俺はきみと別れてその間現世で頼まれた買い物をすませる。
思えば歴代の主は成人済みで、きみのような幼子に人の身を得てからは尚更、仕えることはなかったな。
現代へも、俺はそんなに興味はなかったから、興味津々な奴と当番を代わっていたりもしたし、きみを待つ間少しみて回ろうか。
車に飛行機、関わることがなかったからくりが道を走り、空を渡る。
なるほど、興味深い。
少しだけ心が躍る。
"きみ"と話したいと思った。
『国永』
俺が護れなかった"きみ"の案じた未来であり、過去は、こんなにも空が近いんだな。
〜♪
電子音が鳴って、そういえば加州に渡された端末がポケットに入っていたんだと、思い出す。
画面をスクロールし、通話をタップする。
なんて流暢に言っているが、もちろん加州に教わったことだ。
スクロールってなんだ?タップって?
端末一つとっても、姿形が変わってく。