第3章 さん
障子が締まり、軽快に駆けてく音。
「鶴丸」
「…なんだ」
「折れるべきだったって言葉、どう言う意味?」
「地獄耳だな。別に?今回の負傷とは関係ない」
「嘘」
「君には関係ない」
「それ結構傷つくなぁー……、次はだんまり?」
君もしつこいな。
「あぁ、怒ってるの」
「…」
「やっぱり俺には言いたくないよな、知り合ってまだ日も浅いし。この間も似たような説教しちゃったし。弱ってるやつに」
「…」
「今も、主のこと送り込んだくせに、せっかく泣けたところを俺が離したわけだし」
「…」
「…なんでかなぁ、鶴丸のこと放っておけないんだよな。他の本丸のアンタ見てもそうは思わないんだけど」
「……」
「全てを把握したいわけじゃなくて、どうしようもないような何かがあるなら、支えたいんだよ。折れたいって思うくらいの苦しくて重い荷物があるなら、そんなの置いていけよ。もし必要なら、俺が持っていてやるから」
「君に何が分かる」
言い争いたい訳じゃなく、ただ放っておいて欲しいだけだ。
…この間もそう思っていた気がする。
「わからないよ、鶴丸が言ってくれなきゃ。ただ、見ていて生きづらさを感じる。俺はこの本丸が好きなんだ、主にもみんなにも笑って健やかに過ごしてほしいと思ってる。
その中に、鶴丸もいるってだけ」
俺だって、好きだったさ。
あの本丸が。
誰1人かけることなく、あの本丸にいられたらどんなによかったかってそう思いながら何度夜を過ごしたか。
あの後だって気の合うような奴は確かにいたけど、実際問題この話を伝えられたかと言われたら別だ。
第一こんなことを話して、一体誰が信じてくれよう。
君にだって言うつもりはないと、この際はっきり伝えようと体を起こす。
「たとえ、俺の中に生きづらさがあったとして、君にも過去があるように俺にもあるってだけだろ。
俺に構わ…って、どうして君が泣くんだよ」
ウサギみたいに真っ赤な瞳に大きな涙の粒をためて。
それがぼろっと零れ落ちた。
俺が吐いた棘のような言葉が、君をズブズブと刺していたことに気づいていない訳じゃない。
それでも、君が泣くとは思わなかったんだ。
「…わかんないけど!なんか、わかんないけどさ。でも、多分鶴丸が抱えてるのは、俺が刀だった頃の記憶とは違う気がして」