第3章 さん
「それってつまり、ちゃんとはっきり心に残っちゃうような、そんな気がして。うまく説明できないけど、俺たちは今人の身を得ているわけだし、あの頃は刀で…って、支離滅裂だな」
「言いたいことはなんとなくわかる」
「鶴丸は、折れたいほどの気持ちをかかえてこれからも独りでいるつもりなの?みんなにうちあけないで、ずっとその辛さを独りで持つつもりなの?」
「…辛いのなんて、初めのうちだけさ。気づくと慣れてるんだ。
今までだってそうだった、戸惑いもあって今はこうしてるだけで、バグみたいなものだろうな」
どうして俺はこんな頑なになっているんだろう。
脆くて、弱くて、どうしようもない部分を曝け出す勇気なんて持ち合わせてはいない。
「というか、辛いと君が決めつけないでくれ。そう思うのは君だからで、俺は辛くない。
君に目の前で泣かれることの方がよっぽど堪える」
「へぇ。鶴丸になき脅しが効くなんて、思わなかったけど」
ぐいっと目元を拭った加州の目が変わる。
「この前の言葉を受けて、俺考えたんだ。
一言でも言ってくれるなら、またちょっと考えを改めようと思ったんだけど、そんなこともなさそうだし」
「この前の言葉?」
「編成組むのは俺なんだから、好きにしていいんでしょ。
カンストまで頑張って欲しかったんだけどね、強い奴は他にもいるし」
「…そうだな、刀解なら喜んで受け入れるぜ?」
「俺はアンタが折れるのも、刀解も嫌なの。ここで生活しているのはみんな一振り目で、誰もかけることなくここまで来たんだ。
悪いけど、アンタにもそうあってもらわなきゃ困る」
切れ長の目が俺を捉えて離さない。
「長谷部たちには悪いけど、今日からしばらくあんたには主のお世話係やってもらうから」
「無駄だと思うぜ、そんな荒療治」
「無駄?」
「今までだって、何度も同じようなことあったがな、結局俺のこれは治らなかった。…君の前の主の沖」
ぐいっと襟首を掴まれた拍子に体が持ち上がる。そんな細い腕のどこにそんな力があるのか。
「お前のと、同じにしないでくれない?」
「こわいこわい」
「お前の違って、最後まで諦めなかったはずだ。もがいてもがいて、…俺は、見届けられなかったけど」
悲痛に歪む顔。
「君は忙しいな」
「アンタのせい。俺が不安定みたいに言わないでよ」