第11章 じゅういち
「きみは、泣いてたのか?」
怯えたような顔で、ぐいっとそれを拭ったあとぎこちなく、いつもの表情に戻す。
「何を泣くことがあるの?眠くなってあくびしただけ。隠れても誰も見つけてくれなかったから」
「…」
俺の前の装束を蓋の空いた行李にしまい直すと、慣れたようにその手にあった金の飾りまでそれにしまって、蓋を閉じる。
「もう少しで寝ちゃうとこだったから、ありがとう起こしてくれて」
押入れから出ると、またさっきみたいに俺の脇を通り抜けようとするから、必死で捕まえた。
「…なに?」
「さっきは意地悪な聞き方をしてしまった。俺がいらないなんて、きみが言うわけもない」
「…」
「あの日、旅立つ日にきみに護られるのは刀の本望じゃないと言った」
体を強張らせたのが手のひら越しに伝わる。
「それは、余計なことをするなとかそう言うことを言いたかったわけじゃない。
きみが想ってくれていたように、俺が護りたかったんだ。俺の中からいなくならないで欲しかったんだ。好きだったから」
ぼろっと零れ落ちた涙が、悲しみを訴える。
「そして俺は、きみに"彼女"を重ねて見てた」
傷ついた顔、わかってる。
俺がそうさせてる。
「4日で帰るはずだった。手紙も出した。普通の修行とおなじように」
でも、最後まで聞いて欲しい。
俺を助けたことを、エゴというのなら。
「…でも、きみに届かなかったのは、俺がどこかで彼女に縛られていたから。
ちがうな、彼女を縛り付けていたから。俺の後悔で」
「…鶴丸」
「ん?」
「…わたし、思い出してからずっと調べてた。こっそり」
「何を」
「…帰ってきたら、提案できるように。わたしは、普通じゃないから」
俯いた顔。
きみの表情が見え無い。
「閏年の誕生日の影響で、4年に一度しか歳を取らない見た目もかわらないなんて、化け物じみてるでしょう?ちゃんと審神者になるためにも、どうにかならないかって、調べてた。でも、わからなくて、その調べてる途中で見つけたの。彼女と今の私魂を入れ替える方法。禁忌だけど、誕生日の今日なら、できるよ」
「…え?」
「鶴丸が望むなら、いいよ。やり方を見つけた日に清光には伝えてる。初期刀だから」
察しの悪い俺にはきみがわからない。
だけど、間違えたことには気がついた。