第10章 じゅう
《国永に想われたかった。…あのキスの瞬間、私一生分の幸せもらったはずなのに》
都合のいい言葉を、俺の夢が言わせてる。
《国永、意外とあんぽんたんだよね》
「は?」
《国永の気持ち、ここに流れ込んでくる》
心臓のあたりをきみが抑える。
《ごめんね、ごめん》
「どうしてきみが謝る」
《国永が来た時、本当はわかってた。でも、また会えたって嬉しくて。いつ気付くんだろうって思いながら、気付かないで欲しいって思った。
もう少し一緒にいたかったから》
「いみが、よく」
《ここはあなたの夢だけど、今の私には自我がある。迷い込んじゃったみたい》
「…え、」
《自分勝手なのは私、都合よくあなたを使ったのも私。…今も、さっきも、国永が言わせてるんじゃないよ》
「嘘だろ?」
《嘘じゃない。…国永、私ね》
きみが目を伏せる。
《…私、虹の袂で待とうと思ったの。まんばちゃんと一緒に》
「え、」
《まんばちゃんだけね、…折れたんだよ。私のところに来てくれた。
なんて、言い方はずるいね。私の力が及ばなかっただけ。
……折れても、本霊に還れるはずなのに、私が頼りないからそばにいてくれた。
あと、ほんとのこと言うと姫鶴はうちの子じゃない。他の本丸で折れた刀。あの子も分霊。好きな子がいたんだって、一緒に待ってる間に仲良くなって、今は一緒にいるだけ》
「山姥切が、折れた?」
《うん。私が最後に流した力、受け取ってくれなかったから。政府の手入れも拒んだみたいで、すぐに追いかけてきた。意外と熱烈なんだよね。
…この夢はね、国永が未練を断ち切るための試練。
外れた輪廻を正すためのね》
「みれん、」
《あと、私とお別れする最後のチャンス。私の試練でもある。
それにしても、思い出すの早すぎ。もう少し楽しみたかった》
「…」
きみの言葉を考える。
考えて、考えて、考える。
《ごめんね、説明がうまくできなくて。あと、私のキスを受け入れていたら、国永はこっちに強制送還。一歩間違えたら、今の主さんのところに帰れなかった》
この感情をなんと呼べばいいのかわからない。
溢れた雫だけが知っている気がした。
《だから、間違いじゃないよ。正解。大変よくできました。はなまるあげちゃう。
…私を縛り付けたんじゃない。絡まっただけ》