第2章 に
「丸ちゃんって。きみなぁ、もっと呼び方なかったのかい?それに丸のつく男士なら他にもいるだろう?
鶯丸とか」
「うぐちゃん!」
「蛍丸とか」
「ほたちゃん!」
「俺は?」
「まるちゃん!」
「なぜ!?」
「あー、それが。明石のせいだと思うぜ?」
「明石?でも、きみ昨日は"鶴さん"か"鶴ちゃん"で迷ってたじゃないか」
「昨日は宴会で、明石も飲んでたからな。結構前の話なんだけどさ、主が今より小さい頃に鶴ってうまく発音できなくて、ちゅうってなっちゃったのを、思い出してからかって酒の肴にしてたんだよ。明石は可愛いって思ってたんだろうけど、主は気にしちゃったんだよな」
「それで、まるちゃんか」
「うん!」
まぁ別に、呼ばれ方なんてどうでもいいか。
なんてため息をつくと、貞の腕から抜け出した主がぴとっと俺にくっついて吸い込まれそうなほど黒々としたまんまるの目で俺を見つめる。
…どうしてそんなまっすぐな目で俺を見るんだ。
って、俺はどこの山姥切だよ。
「まるちゃんは、や?」
「嫌という訳じゃなく、呼ばれなれないだけだ」
「なにがいいの」
《国永》
…。
「…いや。今は丸でも四角でもなんでもいいさ」
こてんと首を傾げた主の髪を撫でる。
"国永"なんてきみの口から聞いて終えば、俺はきっと悔しさで折れたくなるだろうから。
「良かったな、主」
「うん!!」
「ところで、きみ、人見知りはもう終わったのかい?」
俺の問いかけに、きょとんとする主。
昨日の宴会では、加州にベッタリで挨拶以降俺には近寄ってこなかったと記憶している。
俺が途中で抜けたのもあるんだろうが。
「人見知りっつーか、主は鶴さんに照れたんだよなぁ」
「照れる?」
「演練行った時とかも主はよく目立つんだけどさ、決まって何故か、鶴さんに構われると照れちゃうんだよ」
「じゃあ、その照れというのはもう解消されたのかい?」
「かもな」
「儚気美人詐欺がバレたんじゃない?おはよ、鶴丸」
「きよ!!」
ひょこっと顔を出す加州。きみはすぐに俺の手を抜けて行く。
「儚気美人詐欺とは、心外なんだが。俺、加州になんかしたか?」
「起こしてくれてありがとう、主」
「どういたしまして!」
「加州」
「どんまい鶴さん。なぁ、それより腹へった」