第2章 に
「ここで待っていたら、誰かしら通るだろうと思い、待っていたんだ。
するとどうだ、こんなに穏やかだろう?今日の疲れか眠たくなってしまってだな」
偉く、回る口だな。
「……そういうことにしておいてやる。こっちだ」
「あぁ、助かる」
滲んだ血の味が不味い。
伽羅坊の見慣れた背中に手を伸ばそうとして、やめた。
「広間には行かないのかい?」
伽羅坊の止まった障子の前の庭の様子が、大広間の前とは違うように感じる。
「お前と、光忠と、貞の部屋だ」
「…あぁ、伊達と」
「俺と火車切は隣の部屋に寝ている」
ガラッと障子を開けると、ぐいっと俺を引っ張り上げ、寝かしつける。
「伽羅坊、もっと丁寧に扱って欲しいんだが」
「うるさい、黙ってろ。そして目をつぶれ」
「寝巻きに着替えたいんだが?」
「うるさい、どんな服でも寝られるようにしておけ」
「はぁ」
バシッとどつかれ、無理やり布団を被せられる。
「伽羅坊、寝られないんだが」
「黙って目をつぶれ」
言われたままにする。
あまり寝るのは好きじゃないんだがな。
脳裏に浮かぶ、悲痛な顔のせいで。
「もごっ」
「貸してやる、俺の枕代わりだ」
えらくもふもふしたものが、顔に乗せられ窒息しそうになる。
そっと、のけると寝息を立てるこんのすけがいた。
「君、どこから」
つーっと、チャックをあげる音が微かにする。
伽羅坊の服に入っていたのかと想像し、なかなかユニークなそれに思わず笑ってしまう。
「いいから黙って寝ろ。お前は明日も出陣があるんだからな」
「あぁ、じゃあ。ありがたく、借りるとするかな」
こんのすけの鼓動が子守唄のようになって、いつの間にか俺も自然に目を閉じていた。
スーッと障子の閉まる音、きっと伽羅坊が出て行ったんだな…。
ーーーーー
ーーー
「鶴さーんっ!」
「ぐえっ!」
体の重みに、奇襲でもかけられたかと目を開ければ、まんまるの黒目が俺を捉えていた。
「どうだ!驚いたか??」
「きみ…っと、貞坊か」
「なんだよ、反応悪いなぁー」
「わるいなぁー」
「せっかく主と起こしにきたのになぁ」
俺の上から、主を持ち上げた貞坊が残念そうに言う。
「まるちゃん、おはよっ」
「まるちゃん?!」