第10章 じゅう
朝、差し込む光で目を覚ました。
夢のせいで、全部、思い出した。
俺を捉えたのは、"きみ"じゃない。
俺を捉えて縛り付けたのは、"きみ"に護られた弱い俺の後悔だ。
あの時犯した俺の罪だ。
槍に貫かれた彼女を見た時、雨の温度を感じなかった時、都合がいいと思った。
俺を庇う彼女に傷を負わせたのは、槍じゃない。
夢では槍だったが、現実では太刀だった。
俺が取りこぼした敵だった。
天井が崩れ落ちてくるのと同時に、彼女を貫いたわけじゃない。
その方がまだ楽だったから、そう夢に見ただけだ。
トドメを刺したのは、俺の弱さだ。
廊下から足音がする。
弾むような音。
勢いよく障子が開く。
《おはよう!国永!!今日こそ…》
昨日は見えなかった元”主"の顔がはっきりと見えた。
《国永?》
俺をそう呼ぶのは、きみしかいない。
「会いたかった」
《昨日も会ったよ》
俺はどんな顔してきみを見ている?
「…守れなくて、悪かったな」
《なんの話?》
「こっちの話だ」
《変な国永》
未練だと分かっているのに、このぬるま湯から抜け出そうと思えない。
帰りたいのに、帰りたくない。
矛盾が生じて、嫌になる。
《早く起きて、みっちゃんのご飯食べようよ》
「そうだな」
《あーあ、国永の様子が変だから、せっかく寝ぼけた顔撮ろうと思って携帯持って来たのに、意味なかったや》
「寝ぼけたって言っても、君がこの障子を開ける前から起きていたけどな」
俺の髪に触れる主。
《ねぇ、国永。お願いがあるんだけど》
…断れるわけないじゃないか。
「なんだ?」
《今日近侍してくれない?》
上目遣いにときめくなんて、そんな時代はおわっている。
「俺が?」
《うん》
「構わないが、山姥切はいいのかい?」
《うん。いいの、国永がいい》
少し潤んだ瞳。
桃色の頬。
長いまつ毛に、赤い唇。
……あぁ、愛おしく想っていた。
こんなんじゃ、帰れない。
その術を見つけたとしても、君に償わなければ。
主の元には戻れない。
君を残して。
今までよく忘れて生きてこられたものだ。
俺たちは、…俺は君に守られたというのに。
《国永》
「……あぁ」
《近侍してくれる?》
「仰せのままに」