第10章 じゅう
泣きたくなるような気持ちで襖に手をかけようとした時、背後から嫌な気配がして振り返る。
『…っ、』
禍々しい気配を振り撒きながら、重い一太刀を俺に浴びせてくる。
鬱陶しいのは、短刀も引き連れていることで、なんとしてでもここを通らせてはいけないと、疲労に気づかないふりをして乱舞する。
『くそっ、…っ』
情けなくも反応が遅れて、かまいたちの現象みたく至る所に切り傷が増えていく。
払っても払っても、キリがない。
どこもかしこも敵だらけ。
どうして俺たちの本丸なんだよ…っ、俺たちが何をしたんだよ…っ!
…歴史に埋もれてく人間の気持ちを味わうことになるとは、なんて。
そんなこと考えている暇もないだろうが。
この襖の奥には、護らなければいけない主がいる。
『うぉおおおおおっ!!!!』
やっとの思いで敵を倒し、周囲を確認しながら用心して襖を開ける。
『国永!!』
主はまだ生きていて、血に塗れた俺に駆け寄る。
『よかった、無事で…っ、』
どちらかともなくそんな言葉を掛け合い、互いの存在を確かめるように抱きしめ合った。
『みんなの気配が、薄くなってて。
…戦は、将が倒れたら終わりだって、まんばちゃんも、長谷部も言ってて。
私、何もできなくて、…ただ、みんなに霊力を送るしかできなくて』
『十分だ。主、少し疲れているだろう?』
『前線で戦うみんなに比べたら、そんなの』
『主、ここを出よう。ここを出て、裏山に登る。春にみんなで花見をしたあの場所まででれば、緊急用の端末で脱出できるはずだ』
『だめ!それはできない。この本丸は!みんなの家で、私の』
『主、君はこの本丸の将だ。君がいればそこが俺たちの居場所だ。家はまた建てればいい。君を気絶させてでも俺は連れていく。
君を失いたくない!!』
君を担ぎ上げて、最後の力を振り絞って部屋を出る。
ありがたいのは、手負いの俺でも倒せるくらいの雑魚しか残っていなかったことだ。
主が部屋を出たことで、力を失った者たちが崩れ落ちる。
傷を負った柱が折れ、瓦礫が落ちる。
主がその光景を見て泣いている。
静かに、泣いている。
廊下なのか部屋なのか、記憶をたどりながら出る。
敵の気配をかわしながら俺は前だけを見ていて、主は後ろを見ていた。
『国永!』