第10章 じゅう
「と言うか痛い」
『俺で主を推しはかれると思うなよ』
「怒るなよ、な?怒るな。美人が怒ると怖いんだぞ?」
『美人とか言うな。アンタに怒るだけ無駄だ』
と言いつつ、俺の指を離さない山姥切。
「そうかい」
なんとかして指を離させ、本題に戻る。
「まぁ、話を戻すと、今俺の主の初期刀が山姥切じゃないんだ。
5振りのうち誰かと聞かれたらやはり思い出せないんだが。君じゃないことだけはたし」
確かだといいかけると、容赦なく掴み直した指をありえない方向に曲げてくる山姥切。
「いたいいたいいたい」
『初期刀は俺だ』
「やっぱり怒ってるじゃないか君!」
『俺が写しだからか?』
「それは今関係ないだろう。この本丸の始めの一振りは紛うことなく君だ。でも、俺の今の主の初期刀は違うんだ。そう思うんだ」
そっと指を離した山姥切。
「俺は、戻りたい。…というより、今の俺の主が泣いている気がするんだ。手紙がこちらに届いたと言うことは、俺の今の主には届いていないと思うんだ。心配もしていると思う。顔を見せて安心させてやりたい」
『そうは言っても鶴丸、今この本丸がアンタの過去だとして、アンタが未来に帰ってしまったら、この本丸にいたアンタは存在しなくなるってことじゃないのか?』
「そもそも、この時代に俺の修行は解禁されてないはずなんだ。主は山姥切の極めた姿を知らないようだった。俺の修行の解禁は、山姥切の後と記憶しているからな。その時点で分岐点を違えていると思う」
『…放棄された世界』
「それも違う気がするな。……俺がいたどの本丸も、解体になってるはずだ。最初の本丸を除いて」
『最初の本丸』
「侵攻があり、俺が審神者を護る役を仰せつかった。…間に合わなかったがな。雨が降っていて、静かに審神者の命の灯火が消えていくのを、肌で感じたんだ。
こんのすけに言われた、刀剣男士のあるべき姿。審神者のあるべき姿。分かってはいたことだが、気持ちがついていかなかった。人間かぶれした自分に笑ってしまうよな、今考えると」
『誰に仰せつかったんだ?』
「それは初期刀…」
そこで思い出した。
初期刀が山姥切だったこと。
心臓が速くなる。
「山姥切だ」
『なるほど。…つまり、ここはお前が鶴丸として顕現した始めの本丸ってことか』
「かもしれない」