第2章 に
「あ…」
急に障子が開いて、金の目と合う。
夜目があまり効かなくとも、月明かりに照らされた空色は少し幻想的だった。
「鶴丸さん」
「一期か、…って、当たり前だよな。お前たちの部屋の前だ」
「えぇ。五虎退と秋田を寝かしつけてきたところです」
「そうか」
「あなたは?」
「散策していた。顕現後すぐに、戦に駆り出されたからな」
「そうでしたな」
くくくっと、小さく上品に笑った一期。
「案内致しましょうか?」
「いや、構わない。厠へいったあと、自由気ままに歩いてただけで、あとはすぐ宴会に戻るつもりだ」
「そうですか」
「あぁ、気遣いありがとう」
「いえ、ではまた」
一期とは反対方向に、別に目的もなく。
しばらく歩いたら本当に戻るつもりでいた。
月明かりに照らされた庭の景趣が本当に綺麗で、密かに驚いていた。
いい趣味をしていると。
どこか、懐かしさもあった。
庭には大きな池があって、その周りに咲いた花は眠りについていて、太陽の下ならどのような顔をするのか気になって、それを想像したくてガラス戸がないことをいいことに、俺は縁側に腰掛けた。
ぶらっと片足を投げ出して、もう片方は膝を立て座る。
しばらく眺めてたら少し首が疲れて、膝にもたれかかる。
穏やかだった。
穏やかすぎて、そわそわするくらいだ。
夜だというのに、鯉が跳ねる。
風が戦ぐ。
草木が揺れ、水面の月が歪む。
いたたまれなくて、もう片膝も引き寄せた。
俺は、何をしているんだ。
こんな穏やかであっていいのか?
静かだから余計、ぐるぐると今までのことが浮かぶ。
催眠術のような、精神治療もどうやら効かなかったみたいだ。
麻酔のように、何度も使われていたら耐性がつくのかもしれない。
あぁ…っ、クソッ、。
いっそどこかで折れて終えば、楽だったかもしれないな。
ギリっと奥歯を噛んだ時、血の味がして頬の肉まで挟んだらしい。
「…鶴丸?」
「……」
「お前、何をしている」
耳に入って来た声に、周りの音が入るくらいにはまだ冷静でいられているのだろうと、少し安心した。
グッとギアを入れ替える。
「伽羅坊!迎えに来てくれたのかっ」
抱えていた膝を離し、ばっと立ち上がる。
「厠から出た後、少し迷ってしまってな」