第10章 じゅう
「愛らしくてつい」
上部だけでそう伝えると、ポンっと耳まで赤くなる。
《極めたら、なおさら達悪い》
恥ずかしかったのか、少し目を潤ませる彼女はさんなことを言いつつ満更でもなさそうで、極める前のここの俺はこのやりとりを楽しんでいたんだろうと言うことをその彼女の一言で察する。
「褒め言葉として受け取っておこう」
『こらこら、いくら主が可愛いからって揶揄いすぎは良くないよ、鶴さん』
「光坊、君は座らないのかい?」
『僕は作りながら摘んでるから、あんまりお腹が空かないんだ。それに、鶴さんのお祝いだからね。腕によりをかけてみんなはもちろん、鶴さんにもこの宴を楽しんで欲しいんだ』
「そうか。ありがとう、楽しむぜ」
光坊が空いた皿をさげるのを目で追っていると、ツンっと袖の辺りを引かれる。
「ん?」
主かと思えば、五虎退の虎のうちの1匹で、座る俺の膝と腕の間に無理に頭を入れようとするものだから、抱き上げて膝の上に抱える。
五虎退と言えば少し離れた席で、上杉の縁がある男士と談笑いるのが見えた。
一期はというと、鬼丸国綱と鳴狐と共に呑んでいるようで、粟田口の短刀達は五虎退だけじゃなく散り散りに座って昔話に花を咲かせているようだ。
と言っても初めは刀派で座っていたはずだから、宴も後半に近づいて席替えしたってところか。
「悪い主、少し抜けるな。俺も他の奴らと話してくる」
《うん、分かった》
盃を持って、上杉の集まりに入る。
『あれ、珍しいね』
間延びした言い方で、姫鶴が俺に酒を注いでくる。
「あぁ、まぁな。たまにはと思ってな」
『ふぅん』
聞いときながら、興味がなさそうだ。
「そう言えば、火車切」
『かちゃ?…知ってるの』
「顕現はまだだったか」
『なに、修行に行ってボケたの?』
「……いや、言ってみただけだ。火車切は広光の作刀だったと記憶していたからな」
『ふぅん。怪しい』
「怪しいって。ただ、修行して来て気になっただけさ。疑うのはやめてくれ」
『まぁいいけど。呑みなよ、宴なんだから』
「あぁ、遠慮なく」
火車切が実装されたのは、俺がどの本丸にいた時だ?
考えても記憶に鍵をかけたように、ハッキリと思い出せない。
それもそうか、主の顔すら思い出せないのだから。