第10章 じゅう
夜には宴も行われた。
俺の正面には貞坊と伽羅坊が座っている。
そんな楽しそうな二人を見ながら、俺は内心焦っている。
ここが己の本丸であると分かっているはずなのに、こんなところでモタモタしてていい訳がないと深層心理で何かが尻を叩く。
何かに呼ばれるように、彼らの側にいない男士に気がついて、話に割って入る。
何か手掛かりを見つけないと、いつまでも何かに尻を叩かれているわけにはいかない。
「伽羅坊、今日火車切は」
『火車切?』
貞坊との会話を邪魔したからか、怪訝そうな顔をする伽羅坊。
決定打は貞坊の一言。
『なぁ、鶴さん。火車切ってなんだよ?』
「なんだよって、その言い方…みんなで迎えに」
あぁ、やっぱり。
「…………いや、なんでもない。少し疲れていたみたいだ」
とにかく、この場所から帰る術をみつけなくてはな。
"君の行く先を白く照らす"と記したのは俺だ。
『変な鶴さん』
なんて言いながら、また談笑を始めた貞坊と伽羅坊を尻目に、俺はまずここがどの時点かを考えた。
身体はこの場所に馴染んでいるようで、ついていかないのは心一つに思える。
……と言うことは、俺がいつか所属していた本丸の一つで間違いが無さそうだ。
まずの手掛かりは火車切。
宴の後半になったら少し抜けて、上杉の奴らにでも聞いてみようと心に決めた。
《国永、国永っ》
「…ん?どうした主」
《ううん、ボーッとしてたから、どうしたのかなって》
本当のことを伝えて仕舞えば、彼女がどうしてか拗ねてしまいそうな気もして言葉を濁す。
「帰って来たことを実感していたのさ。そして次はどんな驚きを用意しようかと考えていたところだ」
《え》
「あからさまに嫌な顔をするなよ」
《したくもなるよ、被害受けるの私なんだもん。朝イチで驚いたかって言って、むっちゃんのカメラとか端末むけてきたりさぁ》
ということは、写真には残ってるってことか。
「あはは、すまない。驚きを提供するのは俺の性分みたいだからな」
《驚きじゃなくて私を揶揄ってあそんでるんでしょ》
リスのように口を頬を膨らませている。
愛らしいと、こんな状況じゃなかったらおもうんだろう。
風船の空気をぬくように、顎から両頬にかけて片手をそわせそっと押す。
《何すんの》