第10章 じゅう
修行はつつがなく進んだ。
きみに手紙はちゃんと届いただろうか。
『きみの行く先を、白く照らす』
決意にも似た宣言、俺は初めて最後の手紙を出すことができたとホッとしていた。
…あとは帰るだけだった。
行きと同じく永き闇を抜けた先、きみの待つ本丸へ。
「帰ったぜ。土産話でも聞くかい?」
ゲートをくぐり、どんな驚きを与えてやろうかと考えていた。
終わってしまえば案外あっけなかったな。
《国永!》
鈴のなるような声が、俺の名前を奏でる。
俺が待たせていたのに、反対に待ち望んでいたような、そんな気持ちだ。
《会いたかった!!》
飛びついて来た少女を抱き止める。
「驚いたぜ、えらく積極的じゃないか」
《えへへ、待ち侘びちゃった。みんな待ってる、早く広間に行こう!》
俺の腕の中で見上げてくる表情が珍しくて思わず笑ってしまった。
『修行はどうだった?』
初期刀の"山姥切"が布を被って聞いてくる。
極み前なのにこんなに親しみやすいなんて、もうすぐ修行が解禁されるからかと思う。
『まぁな、驚きに…」
…話しながらハッとする。
俺は、今、誰の刀だ?彼女は誰だ?
腕の中の彼女が今の主か?
『鶴丸?』
確かめるように、そっと肩を抱いて離す。正面にいる彼女の顔に靄がかかっているみたいで、はっきりと見えない。
「いや、なんでもない。手紙にも書いた通り鎌倉に行って来た」
《あぁ!そうだ、国永、手紙嬉しかったよ》
「あぁ、ちゃんと届いたんだな」
…なんて、何を思っている。
《うん。ずっと大事にする》
胸に手を当てて目を瞑る彼女を見る。
「ははっ、書いた甲斐があるって」
会話をしているのに、どこか遠くに意識が向いているような、変な感じだ。
極めたらこんなものなのか?
会話をしながら、映像を見ているかのような気分がしてくる。
君が泣いてる気がする。
"君"って誰だ?
主は俺の隣に座って、他の刀達とも交流しながら次はまんばちゃんの極みもくるかなぁ?なんて話している。
俺は、山姥切の極めた姿を知っている。
《まんばちゃんが極めたら、どんなになるんだろうね》
主はまだ見たことがないのか?
拾った言葉に違和感は感じたものの、つまらないことを気にする必要もないかと思い直す。