第9章 きゅう
これ以上は、伝えさせたくない。
私が言いたいことを、盗られたくない。
「“鶴さん"がずっと優しくしてくれたから、そばにいてくれたから、その時に産まれた感情だから」
なんて意地悪を思ったからかもしれない。
「また…きみは、俺を捉えるのか」
鶴さんの声が揺れる。
腰に回した腕が解かれて、鶴さんがこっちを向いた。
「そんなつもりじゃ…」
あぁ、ダメだ。
軽蔑される。
「そんなつもりじゃなくても、俺にとってはそうだった」
言いたいことは言うくせに、鶴さんの痛い言葉を受け止めるのは私なのかと、恨み言を言いたくなる。
「…ん」
私の言葉や気持ちを盗るなら、鶴さんの想いだって受け止めてあげたらいいのに。
「俺はきみに、2度と護られたくない」
「うん」
「護られるのは、刀の本望じゃない」
「…そうだね」
顔が引き攣る。
「ごめんね、出がけに」
笑顔で送り出したかった。
あんな夢を見なければ。
「大したことじゃない」
「…行ってらっしゃい」
「あぁ、」
いつまで立ち尽くしているんだと呆れる。
傷ついたのは私なのに、夢の私が被害者ぶっている。
変な感じだ、私をシェアするみたいに夢が入り込んで来ている。
「主」
「…ん。行こっか、清光」
「鶴丸、行っちゃったね」
「そうだね」
「主、寂しいんじゃない?こーんなちっちゃい頃から、主は鶴丸にベッタリだったから。俺の方が主と長いのにさ」
清光、私変だよ。
「そうだね」
「ねぇ、ちょっと大丈夫?」
私じゃなくなっていく感覚。
「うん。…ただちょっと、鶴さんに、身勝手な荷物背負わせちゃったかなって」
「主の身勝手がどんなもんだか知らないけど、荷物くらいがちょうどいいよ。枷でもつけとかないと、アイツ多分帰ってこられないよ」
「…今の私が、枷になれると思う?」
夢の私なら、きっと枷にはなるんだろう。
だって、鶴さんの心にちゃんと残ってる。
枷だったから、幼い私でもそばにいてくれたんでしょう?
"じゃあ、代わってよ"
弱気な私を飲み込むみたいに、夢の私が笑いかける。
代われるものなら、変わりたいよ。
夢でしか会えないくせに、今の鶴さんは"私の鶴さん"なのに。
こんなことを思う私が、ひどく醜い。