第9章 きゅう
「まぁ、まぁ朝ごはん出来てますから、食べましょうか」
「左文字兄ちゃんズ、しれっとしてるけど和睦じゃないからね?!」
ズカズカと入り込んで、泣きそうなのを誤魔化す。
夢のせいで情緒がどうかしてる。
「主?」
隣を歩く小夜ちゃんが心配してる。
「なんでもないよ」
そう言って撫でる。
後ろでは伊達のみんなに囲まれる鶴さんがいた。
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「じゃあ、行ってくる」
食事をして少ししてから、鶴さんが修行の支度をして外に出てくるのを、みんなが待っている。
この本丸でも古株の鶴さんの旅立ちに、清光の時と同様みんなが背中を押したい気持ちであることは、そわそわする姿を見なくてもわかる。
何も言わないつもりだった。
墓穴を掘りそうで。
「近くで見送らないの、主」
「泣いちゃいそうだから」
清光と二人少し離れた場所から見ていた。
白が似合う鶴さんが、紺の縦縞のマントを羽織って何だからしくない。
「主」
清光の声に振り向きもしないで、翻したマントを見たら、思わず駆け出してた。
「待って!」
ぎゅっと、抱き締める。
今のは、どの私?
「引き止めてごめん!やっぱりさっき伝えればよかったって、後悔しそうで」
「あぁ」
「このままで、聞いて」
顔は見れない。
私自身もどんな顔をしているのか分からなかった。
「わかった」
「さっき、プレゼントは極めた鶴さんでいいよって言ったの!あの頃、見られなかったから」
夢に引き摺られていくみたい。
「きみ、」
「あの時、1人にしてごめん!私の勝手な行動が、ずっと…ずっと国永を捉えちゃってた」
ねぇ、辞めてよ。
まだ、私の鶴さんでいて欲しいのに。
「今日、思い出すんだもんな…。国永が、修行に行く日に。言おうか迷った、でも!でも、言わなきゃいけないからこんなギリギリで思い出したんだって、都合よく解釈した」
「…そう、か」
「国永、忘れないで。修行に行っても今の私のこと」
忘れてきて。綺麗さっぱり。
過去のヒトのことなんか。
「え?」
私じゃない思い出なんか、全部置いてきて。
「今から見に行くものがどんなものでも、今の私が…今の私が国永に持ってる感情は、私だけのものだから。再会したときから今までずっと、」