第9章 きゅう
「動揺してるって思われるのかっこ悪いかなって思って。修行前にちゃんと話したい」
…夢のことも。
「鶴丸国永」
言えるかな、ちゃんと。
「あぁ」
真剣な顔で私を見るから、言葉に詰まる。
「うん、まずは…うーん、そうだなぁ」
きちんと聞きたかったのに、スラスラともう出てこない。
「…ふっ」
「なぁに?」
「だってきみ、話したいって言ったからてっきりまとまったものがあるのだと」
"国永"とリンクする。
そんな、優しい顔で見られたら。
「はっきり言って、まとまってない」
こんな話をしてもいいものか少し迷う。
でも、伝えてもいいのなら、1番言いたいことを手繰り寄せるように言葉にした。
「…でも、今何か言わないと、御伽話の鶴みたいにどこか行ってしまいそうだから。
私ちゃんとここで待ってるから」
「え?」
「清光とみんなと。鶴さんの大好きなものいっぱい作って待っておくから、だからちゃんと帰ってきて」
なんて、これは誰の言葉だろう。
彼女の言葉かもしれない。
「…あぁ」
そんなの嫌だ。
今はまだ私の鶴さんなんだから。
「4年に1回だから、鶴さん忘れてるかもしれないけど。鶴さんが修行から帰ってくる日は、私の誕生日なんだからね!」
「…そうだったか?」
「プレゼントはっ」
"極めた鶴さん"
「…でいいよ」
"あの頃見れなかったから"
そもそも、あの頃に修行の制度なんてあったのかすらわからない。
でも、そう伝えてと心が叫ぶ。
「ん?」
「だから!…っだから、あー!もー!馬鹿!」
もう伝えたくない、私じゃない言葉を。
バシッと鶴さんの腹に一発入れ、背中を向けた。
「きみ、ちょっと今なんて言ったんだ??」
「そう何度もいわない」
少し早まる足。
追いかけてくる鶴さん。
捕まったのは、大広間の前。
一瞬あった目が、夢の視線と重なる。
「なぁ、きみ」
パシッと腕を掴む。
ぎゅっ、グルンっと。
「っつ!?」
可愛げもなく、堀川くんに教わった技をかけてしまったのは、動揺しているからだと多めに見て欲しい。
「あ、ごめん!つい!!」
「驚いたぜ」
ぱっと手を離す。
「…うん、…ほら、私も強くなってる」
ダサい誤魔化し方。