第9章 きゅう
「鶴さんっ、」
「っ?!」
障子を開けて、中に入る。
昔よくした起こし方で、奇襲をかける。
「…きみ」
「寝坊したね」
「え…あぁ、アイツらもう起きたのか」
体を起こした鶴さんの邪魔にならないように避けたのは、ここまでの対抗心に少し恥ずかしくなったのと、起きてすぐ抱きしめてもらえた小さな頃に比べて、大人になったからということにしておく。
「そうだよ」
「だから起こしにきたよ」
「それはありがたいが、きみ、いくつになっるんだったか」
「19だね」
「もう少し優しくできないのかい?」
「お寝坊さんには優しくできないな」
「…く」
布団を畳む鶴さんを見守る。
「あ、しまわなくていいよ。今日はお天気がいいし、みんなのお布団干すことになってるから」
「そうか」
「安心して、ちゃんと帰ってきたらふかふかのお布団に寝られるように、修行終わりの日にも干すから」
「それは楽しみだぜ」
一度も目が合わない気がしたのは、夢のせいか。
そう思った瞬間に目が合う。
「あ、ごめん。着替えか!」
「着替えたら行く」
「うん」
慌てて部屋を出て、鶴さんの登場を待つ。
「よしっ…うあわっ」
いつもは出さない声、こんな鶴さん初めて見た。
耳まで真っ赤に染まっている。
「驚いた?」
「あぁ。情けなくも、驚いたぜ。先に行ったとばかり」
確認したかった。
鶴さんが鶴さんであること。
「うん、…いや。ちゃんと話してなかったなって、修行の話聞いた時はついに来たんだって思いながら、ちゃんと実感できなくて」
スラスラ出た言葉に自分でも感心する。
「…というか、こんな日が来るのはわかってたけど、甘えもあってちゃんと向き合えなかったから。審神者じゃなくて、私として向き合いたくて」
「そうだったのか、あまりに淡々としていたから」