第9章 きゅう
「そうだね」
「ねぇ、ちょっと大丈夫?」
少し反応の悪い主。
一体何を言って、なんと言われたんだか。
「うん。…ただちょっと、鶴さんに、身勝手な荷物背負わせちゃったかなって」
…なるほど。
「主の身勝手がどんなもんだか知らないけど、荷物くらいがちょうどいいよ。枷でもつけとかないと、アイツ多分帰ってこられないよ」
「…今の私が、枷になれると思う?」
「くそ妬けちゃうし、言いたくないけど、主の言葉だけがね」
「清光も枷になりたかったの?」
「馬鹿、違うでしょ。どう考えても、羨ましいのはがアイツに向けた気持ちの方」
目を見開いた、主。
「大丈夫、誰も聞いてないから。…けど、鶴丸がさ、戻ってきたら。
戻ってきたら、教えてあげてもいいんじゃない?」
「…戻ってこなかったら?」
「その時は俺が貰ってあげるよ、主の気持ちも想いも受け止めた上でね」
「うん。…じゃあ、その時はよろしく」
鶴丸、アンタ言ったよね。
俺に、4通目を届けて欲しいってさ。
俺はちゃんと約束を守るよ。
だから、どんなものを見ても、感じても、鶴丸はここに帰ってきてくれないと困るんだ。
「4日後、楽しみだね」
「うんっ」
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数時間前に遡る。
いつもより早く目が覚めた朝。私が私であることにホッとする。
いつもの本丸、きっともうすぐ清光が起こしに来てくれる。
激しく音を立てる心臓を落ち着かせるように、深呼吸で誤魔化す。
布団を畳んでいると、まもなく清光が障子を開けた。
私がもう起きていることに、少し驚いているみたいだ。
「おはよ、清光」
「おはよう、主。早いね」
「うん。鶴さんの修行の日だからね」
「そう思って早く起こしに来たのに。珍しく鶴丸も起きてないよ」
「そうなんだ。じゃあ主直々に起こしに行こうかな」
「いいんじゃない?あいつも喜ぶかも」
「そうする」
「布団、畳んだらそこでいいよ。今日干すから、鶴丸にも伝えておいて」
「はーい」
鶴さんを起こすなんて、夢に対抗しているみたいだ。
分かってるよ、夢の私。
ちゃんと返すもん。
…でももし、もしも、少しだけでも鶴さんが今の私を、ちゃんと見てくれているなら、まだもう少しだけ夢を見ていたい。